2005年10月28日

コウノトリ空へ 2005初放鳥 記者の目:コウノトリ野生復帰計画が問うもの=武井澄人(豊岡支局)【毎日新聞2005年10月28日】

「共生する豊かさ」の改革−−勝ち組論理とは正反対
 今年9月、私は日本のこれからの進路を考えるうえで、極めて大きな二つの歴史的事件が起きたと考えている。一つは、いうまでもなく総選挙での小泉自民党の圧勝。もう一つは、兵庫県豊岡市であったコウノトリの野生復帰計画の開始だ。一見何の関係もない出来事だが、共通するキーワードは「改革」。しかも、両者が目指すのは正反対の方向性を持っている。

 では、コウノトリの野生復帰がなぜ改革なのか。理由は、単に国内で絶滅した野鳥の復活にとどまらず、敗戦による焦土からの復興、高度経済成長、そしてバブル経済を経る過程で、この国が失い、あるいは置き去りにしてきた別の豊かさの意味を見つめ直し、社会を再構築する試みだからだ。いわば、自然と人間がともに主人公の「豊かさの構造改革」なのだ。

 野生復帰の舞台となった県立コウノトリの郷(さと)公園に行けば、それが誰にでも体感できる。9月24日に試験放鳥された5羽は現在、公園の半径約1キロ圏内にとどまっている。その是非は別にしても、公園に足を運べばほぼ確実に見つかるし、大空を舞う姿は感動的に美しい。白くて大きいグライダーのように空を滑ると、周りで時間がゆっくり流れ、その中に自分が溶け込んでいくのがはっきり分かる。

 鳥の魅力だけでない。棚田や湿地が広がる公園と周辺は、稲刈り後には赤トンボが無数のちりのように輝いて飛ぶ。長年コウノトリの専属飼育員だった松島興治郎さん(64)が「せかせかしないでゆったり座って、風景の一つになってしまえばいい」と言うように、実にぜいたくな時間が過ごせる空間だ。

 公園の存在はまた、地域社会の意識にも変化をもたらした。特に地元の祥雲寺地区では顕著だった。その名も「コウノトリの郷営農組合」ができ、肉食のコウノトリの餌場になるようにと、農家の常識では考えられなかった冬場の田んぼに水を張る「冬期湛(たん)水(すい)」に取り組む。アイガモ稲作で都会の人との交流を図り、公園前の朝市で地元産有機野菜などを売るグループもある。共通するのは「コウノトリを受け入れられる環境を支え、それを次世代に受け継ぐのは自分たちだ」との思いだ。

 市は、試験放鳥に合わせて県と共同で、「コウノトリ未来・国際かいぎ」も開いた。テーマは「人と自然が共生する持続可能な地域づくり」で、全体会座長を務めた同市出身の農学者、保田茂・神戸大名誉教授が、放鳥が私たちに問いかけているものを的確に指摘した。「『努力すればお金が得られる』という価値観は世界経済の規模縮小や資源の高騰などで幻想になる。これまでの価値観を捨て、経済的に貧しくなるこれからをどう心豊かに暮らすのか」

 保田氏はさらに、身近な美しい環境の整備と食料・資源・エネルギーの自給をキーワードに、人間と自然がうまく折り合いをつけていた時代の暮らしに原点回帰する勧めも説いた。市も昭和30年代以前の暮らしを「豊岡型」と再定義した「環境経済戦略」を策定し、具体化を模索する。

 コウノトリとは正反対の方向性を持つのが小泉改革と言っていい。効率と成果が求められ、政治的・経済的に力を持つ「勝ち組」を是とする論理で、多様性を否定するような空気を感じているのは、私だけではないだろう。

 豊岡にも変化の波は押し寄せている。24時間営業のコンビニチェーンが近年進出し、まちの消費を変えた。独身である私の日々の食生活を支えてもいる。京阪神と直結する高速道路の建設計画も進む。

 一方で、野生復帰は、人間中心の利益追求の度が過ぎた結果、絶滅に追い込んだコウノトリと共生関係を結び直す取り組みだ。「勝ち組」の論理とは相いれないもので、成功には子や孫の代にまたがる長期的な視野がいる。郷公園の大迫義人・主任研究員も「50年はかかる壮大な実験」と強調する。

 実りの秋。知り合いの農業者から新米のおむすびをごちそうになると、お金で買えない温かい気持ちも味わえる。そんな自然の分け前が残り、国内最後の生息地になった豊岡を「コウノトリに選ばれた」と表現する市民もいる。

 どちらの方向性に、未来を感じ取ることができるだろうか。多様性を許さない息苦しい世の中より、私は後者を選びたいと思う。コウノトリがもたらす豊かさをかみしめながら、一地方都市の静かな改革の成功を祈りたい。
http://mainichi.jp/articles/20051028/org/00m/040/999000c

http://archive.is/VgZJ2
コウノトリ空へ 2005初放鳥 元飼育長・松島興治郎さんに聞く/16〜18 /兵庫【毎日新聞2005年10月27日】
コウノトリ空へ 2005初放鳥 1カ月 恋も経済も絶好調 ペアリングも間近?−−兵庫・豊岡【毎日新聞2005年10月25日】
コウノトリ空へ 2005初放鳥 野生の雄 独身最後の大仕事? 40年ぶりの営巣−−兵庫・豊岡【毎日新聞2005年2月19日】
コウノトリ空へ 2005初放鳥 創造的に自然環境復元を 野生復帰フォーラム開催 三田/兵庫【毎日新聞2005年2月18日】

2005年10月27日

コウノトリ空へ 2005初放鳥 元飼育長・松島興治郎さんに聞く/16〜18 /兵庫【毎日新聞2005年10月27日】

ああ、今日も生きてる
 −−松島さんを飼育の仕事に駆り立てたのは責任感でしたか?

 もう責任感というより、私1人しかいませんから。(私が)退いたら鳥は死ぬか、(保護増殖の)事業がやむか。

 −−やむにやまれず、ということですか?

 瞬間の休みもないわけですから、誰かが何かをして、つなげないといけない。

 −−ストレスがたまったのでは?

 たまりましたよ。

 −−発散はどうやって?

 ……まあ、根っからの気楽人なんでしょうね。

 −−寝たら忘れちゃう?

 忘れたりしませんけど、強靱(きょうじん)にできてたんですよ。もう本当にね、朝起きたら「わぁっ、生きてる!」って感動するんです。それで一日済んだ、「今日も頑張った」「明日もあるように」って。病人やなんかでも(か細い声で)「ああ、明るくなった。生きてる」って言うでしょうが。一緒ですよ。日がとっぷり暮れるまで、そんなつながりの繰り返しですから。

 −−「生きてる」とは松島さん自身が?

 いや、鳥が。「ああ、今日も生きてる」って。そのぐらい厳しい状況だったんですよ。いつ何が起きるか分からないですから。ぱっと朝起きて、真っ先にもう目の前にいるわけですから、(作業小屋の)戸を開けて出た時に、あっいる。頑張ってる、クラッターリングやってる。そういう中で「おはようさん」「今日も元気でいこうぜ」っていうような、無言の中でやりとりをしながら。

 −−その時もし松島さんが逃げ出していたら、試験放鳥は迎えられなかったですね。

 逃げなかったし、私が逃げないでやれるようなことを、周りの人たちがやってくれてたといういうのもあるんですよ。それは私にとって、唯一今がある大きな要因だと思います。

 −−「朝が迎えられる」ことが松島さんにとっても大事なことだった。

 それはもう、素晴らしいもんだった。

 −−糧だった。

 うん。それで生きてるという。

 −−命のつながりを目の前で感じる毎日だった。

 夜が明けて、すうっと朝の空気を吸った時に、やっぱり生きてる、生きた、今日が始まったっていうのが、これが明日につながるんですよ。その日その日から出発ですから。

「一生懸命」しかなかった
 −−松島さんの「支え」とは具体的に何だったのですか?

 私の仕事を軽くしてくれるということじゃなくて、やっておれるだけの精神的な支えになってくれたり、ある時には希望を見いだしてくれるような何かをくれるような人たちが常に身の回りにあった。私は非常に幸福だったと思う。そりゃあ不平不満もようけありましたよ、「人を何と思ってるんだ」と。私だったら、そんな使い方したら、この人の家族は恐らく持たないだろうなって思いますよ。

 −−それでも感謝の気持ちを持てるというのはまるで仙人です。

 だけど、ある違う面では私に「お前はダメだ」と言わないでやらせてくれてる。神戸や大阪や京都の動物園にもよく出入りしました。なぜかっていうと、そういうところで少しでも人の持ってるものを盗んで自分の糧にしたいし、自分がこれから何をやるべきかの判断材料にしたい。そういった時に、本当に仲間のような形で私に接してくれる人たちが何人もいた。私はその当時としては、べらべらじゃないし、人見知りもよくしたけど、妙に人がよくしてくれるんですよ。

 −−「おれがコウノトリを守らなきゃ」という気負いは?

 なかった。ただその時々、やっぱり一生懸命だったのは、人がどう言おうとそれしかなかったから。でも「これを守ってやらなきゃならない」とか何とかって理屈っぽいことはなくって、そんなカッコイイもんじゃないよ、もう。ほんと、一生懸命。っていうか一生懸命じゃないと、もうどうしようもない雰囲気の時代なんですよ。

 一生懸命という意味もいろいろと解釈の仕方はありますけどね。自分なりに「自分の力はこんなもんだ」ということで一生懸命。私の心の中で、私の判断の中で、「今することはこれだ」ということで一生懸命。今日は済んだらいいってことではない。今日が終わるっていうことは、明日があるために今日が終わるんだ、ということでないと、やってられませんよって。

嫁さんもらったけど…
 −−人工繁殖の成功まで「本当なら逃げ出したかった」という苦しい道でした。泣き言いってられるような雰囲気じゃなかった?

 どんどんと状況がね、思わしくなくなってきたんですよ。泣き言なんかいってられない。その日その日がもう、真剣勝負。誰に頼るかっていったって、自分以外ないんですよ。けどね、泣き言いったって結果的には自分でやってることは自分で責任を持たなきゃいけない。自分のこととして跳ね返ってきますから。

 −−平穏な暮らしもままならない状況ですね。

 そうそうそうそう。これはいかんっていうのでね。おれも嫁もらわな、27(歳)にもなってどうしてくれるんだ、って。いやまあ、もっともだ、じゃあ嫁があるのかっていうから、探さないかん。努力したんですよ。

 近在では「あんなへんな人に嫁やったらどうしようもない」。だから、大阪のほうから。まあ、そうはいったって、すぐっていうわけいかないし、私もすぐに来られても生活に困るし。

 −−生活に困るというのは収入面で?

 いやいや、(飼育の仕事を)1人でやってたし。だから、こういうふうに結婚しようと思ってるんだということで、何とか(今の状態を)変えてくれと。少しくらい考えてくれてもいいじゃないかということで、じゃあ、「もうしょうがないなあ」と。

 −−昭和43年9月、27歳の松島さんは、当時21歳だった久美子さんと結婚されました。

 飼育場に365日泊まりっ放しのような状態でしたけど、1週間にいっぺんくらいは休みっていうか、自宅に帰りました。

 −−やっと人間らしい生活になりましたね。

 いやあ、人間らしくなかったですねえ。きちっとじゃなかったです。本当にその時々はもう精いっぱいでしたからね。家族をほったらかしたという意識は、私は全くないんですけど、家族のためにも私は一生懸命やったぞという気持ちでずっとおりましたけど、やっぱり一般的(な家庭)ではなかったというのはたしかです。=つづく
http://mainichi.jp/articles/20051027/org/00m/040/999000c

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2005年10月25日

コウノトリ空へ 2005初放鳥 1カ月 恋も経済も絶好調 ペアリングも間近?−−兵庫・豊岡【毎日新聞2005年10月25日】

ペアリングも間近? グッズ売り切れ続々
 兵庫県豊岡市の県立コウノトリの郷(さと)公園で、コウノトリの野生復帰に向けて人工飼育した5羽の試験放鳥が始まって24日で1カ月。5羽の現状や観光地などへの影響をまとめた。

 5羽は現在、公園を中心とした半径約1キロが行動圏。豊富な餌が取れる湿地や安心なねぐらが公園周辺に整備されているためとみられる。今月16、17日には、大陸からの迷い鳥で3年前からすみついた野生の雄「八五郎」も同公園に飛来。5羽と“接近遭遇”した。

 さらに、公園前に立てられたコンクリート製人工巣塔(高さ12.5メートル)の上では、放鳥前から仲が良かった雄と雌がくちばしを重ね合うなど、ペアリングの前触れと考えられる行動が見られるようになり、冬の繁殖期に向けて期待も高まる。

 同公園の池田啓・田園生態研究部長は「おおむね順調にきている。冬場には餌が不足するので、これまでの観察結果を検証して給餌の必要性などを判断したい」と言う。

 一方、同公園の入場者は、1カ月で約2万5000人に達し、例年の約2倍。公園内の市立コウノトリ文化館で販売中のコウノトリ関連グッズも売れ行き好調で、特に毛糸製マスコット(270円から)や一筆箋(せん)(350円)など、市内の障害者4人が手作りするグッズ約15種類は、「並べれば並べるほど片っ端から売り切れてしまう」状況だ。

 公園だけでなく、近くにある外湯めぐりで知られる城崎温泉街では、放鳥からの10日間で外湯の入浴者数が、昨年同期比で3割増に。市観光課は「来月にはカニ漁も解禁され、冬の観光シーズンに入る。さらに観光客が増えるはず」と期待する。【長尾真希子、武井澄人】
http://mainichi.jp/articles/20051025/org/00m/040/999000c

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posted by BNJ at 22:00 | Comment(0) | 野鳥ニュース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする