2005年11月16日

コウノトリ空へ 2005初放鳥 元飼育長・松島興治郎さんに聞く/28〜30 /兵庫【毎日新聞2005年11月16日】

行動はどんどん広がる
 −−郷公園から1キロの半径で、放鳥された5羽が動いてるというのは心配のない状況?

 と、思いますよ。だんだん広がっていく。八五郎さんだって来た時なんか、郷公園の中だけしかいなかったじゃないですか。ということは、公園の中で生活できたんですよ。出てみたら、外にもいいとこあるよ、という形の中でどんどん広がっていく。これはやっぱり、一つの学習ですよ。

 今までは苦労して苦労して探したんだけど、何かそこに行くと、誰かが見てる、誰かついてきたなあっていう、嫌な思いをしながら、何年かかけて宮崎から来たでしょ。そういうものをきちっと身をもって知ってるから、ここっていうのはそういうものから逃れられるいい場所だし、仲間もいるし、とりあえずもう、どういうんか、先天的に安心できる場所というものを感じたんじゃないですかね。

 今度の鳥はそうじゃなくて、ここで生まれてここで育ちましたから。だから、こういう環境ってのが彼らにとっては普通の環境なんです。

 −−5羽は学習の過程にあるということ?

 でしょうねえ。まあ、人間でもそうでしょうけれど。つまずいて初めてわかる部分と、それから本能的に「危ないな」と思うものに対する警戒心っていうのは持ってるはず。郷公園には餌が常にあって、安心できるねぐらがあって、だけど、出かけていってみると、実はそうじゃない部分があった。今まで網越しにカラスやトンビが来てたのが、じかに近づいてくるとかね。

 −−実際に今、飛んでみながら学んでるところなんですね。

 そうですね。だから、すぐにばーっと拡散していくなんていうふうに考えないほうがいいかもしれない。

捨てたもんじゃない日本
 −−たくさんの人々が放鳥コウノトリに会いに来ます。

 せっかく今まで豊岡市が温めてきたわけじゃないですか、コウノトリを。ずっとこう囲って。それをたくさんの人が関心をもって、わざわざ見にきてくれるっていうのは、これは他にないですよ。コウノトリそのものがすごい力を持ってると思いますよ。

 それと、報道というすごいメディアの力でもって隅々まで知らしめてくれるわけじゃない。それで「ちょっといっぺん行ってみようじゃないか」「行かんと乗り遅れるよ」っていうぐらいなものをやっぱり感じさせるし。鳥そのものがやっぱり、あんただってそうじゃないですか、鳥見たらやっぱりひきつけられて、気になって(郷公園に)来ちゃうじゃないですか。

 −−来ちゃいましたね、今日も(笑)。

 そういうもんなんですよ。分かるでしょ? 気を引くというか、何となく気にさせる状況を持ってるっていう、これがまたいいんですよ。だから、これだけの人を動かしたら、ここにやっぱり、何か活性化を感じるじゃないですか。

 −−にぎやかになったのを感じますね。

 やっぱり、日本だってまだ捨てたもんじゃないなあって。これだけ人が動くよってね。白けてしまったら寂しいじゃないですか。やっぱりこういう、自然の生き物に対する慈しみみたいなものをまだ、日本人の心の中に持ってるんですよ。毎日生活苦しいですよ。苦しいですけど、そういうものを超越して、やっぱりここに来てみようかとね。

 −−試験放鳥を通じて豊岡が挑戦しようとしているのは、今の小泉改革と逆の方向性を持つように思えますが?

 逆とはいえませんけどね。いろんな手法があるんでしょうけど、ここはここで、これも一つのね、やっぱり、私たちがこれから生きていく先に何かを見いだせる一つの場所としてね、これから先、人が集まってくれれば、そりゃあいいんじゃないですか? 豊岡市だってこんだけのもん作って、兵庫県だってこれだけのものあれして、ねえ。

鳥と付き合う心遣いを
 −−放鳥後のコウノトリと私たちはどんな付き合いをしたらいいんでしょうか?

 そりゃあやっぱり、心遣いはほしいですよ。そうじゃないですか、あんたのうちも誰か隣の人が見とったら、毎日双眼鏡で見てる人がいたりしたら、たまらんじゃないですか(笑)。

 −−たまらんでしょうね。

 人間同士だったら、おそらく訴訟問題だ(笑)。

 −−相手が鳥とはいえ、ちょっとした心遣いはほしいと。

 そうそうそう、心遣いがほしい。まあ、ここまでだったら、彼らも多少なりとも飛んでいく余裕があったり、こちらとの距離を測る余裕があったりという、その距離感だとかね。四六時中24時間張り付いてやらないで、おしっこする時間ぐらいでもちょっと横向いとったろうかって、あるじゃないですか。相手がモノと思ったらいかんって。相手も生きものなんだし、私らもそうだ。だったら、「自分らが嫌なことはするな」とね。

 −−その辺りが松島さんからの一番のメッセージかもしれません。

 この瞬間っていうのを私の記憶の中に残しておきたいので写真1枚ちょうだいよ、許してねっていう気持ちがあって、初めてそこでお互いの暗黙の了解ができる。写す時のマナーっていうのは、当然あるべき。だから、野生動物を撮る時には、そんなにせかせかしないで、ゆったりと座って、後ろに石を背負ったり木を背負ったりして、自分も石になったり木になったりして、そこの風景の中に取り込まれた中でゆっくり観察をして、写真を撮るの。写真を撮ってる者がその風景の一つになってしまえばいいわけなんです。

 −−郷公園という場所はそれができるところですね。

 うん。そうです。だから、どんどんどんどんとこの状態が、(放鳥コウノトリが郷公園を離れて)外に出て行った時に、おんなじ状態がずーっと拡散していった時には、よくない。八五郎にわーっと群がったみたいに。行く先々でそういう状態が続いちゃうとね。緩やかにそういうふうにいった時はわりといいんですけどね。ずーっとこの、過激にその状態が続いていくっていうのは、やっぱり、つらいですよ。=おわり
http://mainichi.jp/articles/20051116/org/00m/040/999000c

http://archive.is/lCwms
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