2008年01月05日

朱鷺色の空に 2008初放鳥 放鳥を前に/3 冬季湛水とビオトープ 田んぼを「暮らしの場」に /新潟【毎日新聞2008年1月5日】

 佐渡島の南東部、旧新穂村に広がる小佐渡丘陵。斜面に沿って、階段状に棚田が広がっている。ヘリで上空を飛んだ先月19日、所々の田んぼが鏡のように、冬の薄日を反射していた。今秋、佐渡の空に帰るトキもきっと、同じ光景を目にするはずだ。

 この時期、新穂の田んぼが水をたたえるのは理由がある。

 農閑期の田んぼは通常、農業機械を入れやすくするため、水を抜くことが多い。だが、ぬかるんだ田んぼには冬でも、虫などの水生生物が生き残る。試験放鳥後、こうした田んぼをトキの「暮らしの場」にしようと、県や市、ボランティアなどが「冬季湛水(たんすい)水田(冬水田んぼ)」づくりを進めているのだ。

 県によると、佐渡島でこうした冬季湛水を行う水田は約31ヘクタール。ほかに、休耕田などを活用し、人工的にドジョウなどを生息させるビオトープ(生物生息空間)が約21ヘクタール整備されている。人工のえさ場は佐渡島の耕地面積(05年、8512ヘクタール)の約0・6%。まだわずかなものだが、冬季湛水とビオトープを足した面積は、3年前の3倍に広がっている。

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 小佐渡丘陵の中腹部にある旧新穂村の生椿(はいつばき)地区。かつては5戸ほどの農家が暮らし、棚田での米作りを細々と続けてきた。佐渡トキ保護センターの元嘱託職員で、長く人工飼育に当たった故高野高治さん(97年死去)も、ここで暮らした。

 今では集落に郵便配達も来なくなり、住民はすべてふもとの人里に移り住んだ。地区に4・3ヘクタールある水田のおよそ半分が、国の減反政策による調整水田となっている。

 高野さんの水田を引き継いだ長男、毅さん(64)は、自前の田んぼ約50アールのうち、26アールをビオトープにした。県と市からの助成金もあるにはあるが、10アール当たり年4万円程度と微々たるものだ。

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 えさ場整備で行政に協力しているとはいえ、毅さんの生活が保証されているわけではない。ただでさえ、島は若年層の流出が止まらず、営農も年々厳しくなっている。減反に応じ、ビオトープ整備に協力するのは一体、なぜか。

 高治さんが集めた資料や写真に埋もれた自宅の部屋で、毅さんが声を大にして答えた。「農村が倒れれば、消費地の都会も共倒れ。鳥(トキ)も暮らせない環境が、人間にとっても良いはずがない」。土の上で生きてきた親子2代の信念に違いない。(つづく)

ことば「生椿地区」
 19年生まれの高野高治さんが子供のころから、数多くのトキが飛来。31年には水田に27羽が舞い降り、高治さんは「あたり一面に牡丹(ぼたん)の花が咲いたよう」と書き残した。59年、トキ保護に本腰を入れ始めた国の求めに応じ、山階芳麿・山階鳥類研究所初代所長らの調査団一行を、高治さんが案内している。
http://mainichi.jp/articles/20080105/org/00m/040/999000c

http://archive.is/Y8JuR
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