2014年05月08日

渡り鳥、微弱な電磁波でも方向失う【ナショナルジオグラフィック日本版ニュース2017年3月25日】

科学者は、ヨーロッパコマドリを観察して、渡り鳥が地球の磁場を頼りにどのように方向を決めるかを探究している。

PHOTOGRAPH BY ANDREW PARKINSON / CORBIS
 鳥の行動に関する実験の失敗から、微弱な広帯域電磁波の影響について驚くべき知見が得られた。 ドイツのオルデンブルク大学の感覚神経学教授ヘンリク・モウリトセン(Henrik Mouritsen)氏は2005年の春に、渡り鳥の脳の研究を開始した。渡り鳥が地球の磁場に基づいて方向を決めるとき、脳のどの部分を使っているかを調べるという野心的な研究だ。ところが研究を始めたとたんに、モウリトセン氏を驚かせる出来事が起こった。

 鳥が本能的に持っているはずの渡りの行動が、めちゃくちゃになったのだ。渡り行動については十分な調査報告があり、モウリトセン氏もそれを前提として研究を設計していたにもかかわらずだ。

 モウリトセン氏の研究チームは3年かかって、この一見異常な鳥の行動の真相を突き止めた。しかし、その探求の過程で、驚くべき事実が判明した。鳴禽類の保護にも、人間の健康にも、重大な関わりを持つ事実である。

◆鳥も研究者もうろたえた

 モウリトセン氏の研究は、夜間に渡りをするヨーロッパコマドリを2つのグループに分け、それぞれを別の木製の小屋に入れることから始まった。使うのは、すでに北に向かう予兆を見せているヨーロッパコマドリだ。片方のグループは対照群で、もう片方のグループには、実験が軌道に乗ったなら、さまざまな処置を施す予定だった。

 鳥を入れる小屋の中には、エムレン・ファネルという漏斗型の特殊なケージが入っている。漏斗の内側には感熱紙が貼られ、鳥が上に出ようとするとき、脚でひっかいた跡が記録される。小屋の中では、太陽や星といった、方向を決めるほかの手掛かりがないため、鳥は地球の磁場を頼りにするはずだ。木製の小屋の壁は、磁場を妨げない。鳥は北に向かって飛び立ち、出て行くときの跡を感熱紙に残すことになる。

 これまでに数え切れないほど行われてきた実験では、決まった方向に向かうそうした跡が残されていた。ところが、今回の実験では、最初からそうはならなかった。

 コマドリたちは、北の方向が分からないようだった。「3年間、春も、秋も、鳥たちは基本的にランダムな方向に飛び上がっていた」と、モウリトセン氏は報告する。

 餌や、ケージや、ケージの形や、光や、光を当てる周期を変えてみても、漏斗の内側のひっかき跡のランダムさに変化はなかった。

 あるとき研究チームは、小屋の中にアルミニウム製のファラデーケージを入れてみた。ファラデーケージとはアースされた金属のかごで、地球の強力な静磁場は遮断しないが、電気器具や電子機器などから発生する、変化する弱い電磁場は遮断する。そのうえでコマドリをエムレン・ファネルの中に離すと、鳥たちは北に向かって飛んでいった。モウトリセン氏には、奇跡のように思えた。

 この時点で研究は予定より3年遅れていたが、すぐにチームは当初の目的であった脳の実験を開始した。その研究成果は、2009年に「Nature」誌に発表されている。

 しかし、ファラデーケージで解消した異常行動は、なお謎として残った。

◆微弱電磁波と異常行動がシンクロ

 微弱な電磁場の人体への影響の問題は、携帯電話などの安全性とも関連して論争が続いている。微弱な電磁場が行動のプロセスに影響を及ぼすという仮説について、科学的に信頼できる証拠は存在しない。

 また、ファラデーケージが微弱な電磁波を遮断して障害を解消したのだとしたら、これまでのほかの場所での実験は、なぜファラデーケージなしでうまくいっていたのだろう。何かが違ったのだろうか。

 脳の実験を終えた後にモウリトセン氏らは、簡単なテストをしてみることにした。小屋に入れたファラデーケージのアース線を、つないだり切ったりしたのだ。

 パターンは完全に一致した。アース線を操作するだけで、鳥の方向感覚のメカニズムが働いたり乱れたりした。

 この現象に関心を強めた研究チームは、次に、小屋の中の電磁波の乱れを、ファラデーケージをアースした場合としない場合とで測定した。アースをしない小屋で検出されたノイズは、AMラジオ波の広い周波数帯にわたり、非常に弱いものだった。世界保健機関(WHO)が人間の健康を守るために採用しているガイドラインの100分の1から1000分の1程度だ。それでも、不思議なことに、鳥の磁気コンパスの機能を停止させるには十分だったのだ。

 さらに、決定的な証拠として、外部の電磁波を遮断した小屋の中で、AMラジオ波程度の弱い広帯域のノイズを発生させると、鳥の磁気コンパスは働かなくなった。

「鳴禽類に大きな影響があることが分かった。しかし、それでも渡りをする無数の鳴禽類は、季節ごとに望んだ場所に到着している。AMラジオは世界中どこでも聞くことができる。ではどうしてそのラジオ波が鳥を邪魔できるというのだろう」と、モウリトセン氏は疑問を抱いた。

 研究チームは実験を街の外で行った。あらゆる電気器具や電子機器から離れたオルデンブルク郊外の野原の真ん中で、同じ実験を繰り返したのだ。野原で遮蔽されていない小屋のノイズレベルは、オルデンブルクでの実験で遮蔽した小屋の中と同じくらいだった。鳥たちは北に向かって飛び立っていった。

 ほとんど信じ難いことだったが、答えは明らかだった。微弱な広帯域の電磁波ノイズが、渡りをする鳴禽類が季節ごとに目的地に向かうルートを知るために用いる最重要機能を無力化しうるということである。そして、現在の都市圏には、そのような電磁波ノイズが溢れている。

 この発見で、渡りをする鳴禽類が減ってきているという心配な事実を説明できるかもしれないとモウリトセン氏は話す。

 この発見は、人間の生活が生み出す微弱電磁場が生物学的プロセスに影響を及ぼすという、科学的に健全な初めての証拠でもある。

 モウリトセン氏によると、観測された周波数から見て、これらは携帯電話や送電線によるものでなく、ほかの電波源によるものだが、それが何かは特定できていないという。

 この研究は、「Nature」誌オンライン版に5月7日付けで掲載された。

Photograph by David McNew / Getty
http://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/9206/

http://archive.is/I5Fsp

posted by BNJ at 23:00 | Comment(0) | 海外の鳥ニュース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする