2015年05月13日

NYタイムズ 世界の話題 インドの牛肉食禁止、動物園にも波及【朝日新聞デジタル2015年5月13日】(ハゲワシ)

インドのニューデリーで飼育される牛(写真はAP)

 パラシュは、インド西部のムンバイ(マハラシュトラ州の州都)にあるサンジャイ・ガンジー国立公園では最も大きな雄のベンガル虎だ。エサの時間になるまで檻(おり)の中を行ったり来たりと歩き回っているが、飼育係がエサ場へのゲートを開けると一目散に走って行って食らいつく。

 これまでだったら、体重約200キロのパラシュには、7キロほどの新鮮な生の牛肉が用意されているはずだった。ところが、エサの事情が変わってしまった。

 この国立公園で飼われている肉食獣は、パラシュのほかに8頭の仲間のベンガル虎、3頭のライオン、14頭のヒョウ、3羽のハゲワシなどだが、エサはすべて鶏肉に変わった。健康に配慮したダイエットではない。インド独特の政治と宗教が絡んだ事情による変化だ。

 マハラシュトラ州の政府はヒンドゥー至上主義を掲げる「インド人民党(BJP)」が率いており、最近、宗教上の理由から牛肉の所持・販売まで全面的に禁止する法律を制定した。同法の適用対象は、ヒンドゥー教徒だけでなく非ヒンドゥー教徒も含む。違反すれば最高で禁錮5年の刑が科せられる(※訳注)。

 この法律制定を主導したヒンドゥー教徒右派にはヒンドゥー民族主義者も含まれており、昨年、BJPを連邦議会第1党の地位に押し上げてナレンドラ・モディを首相とする中央政権成立に貢献した。この法律制定は、また、マハラシュトラをはじめインド各地の主要な州政府を握るBJPの勢力増大を示す証しとして広く受けとめられている。

 しかし、牛肉食の禁止を法律で定めたことはムンバイのような国際都市に住むエリート層――牛肉好きもいる――の間に不満を招いている。彼らはレストランのメニューからビーフステーキが消えたことを嘆いている。ヒンドゥー至上主義者と、少数派の非ヒンドゥー教徒らを含む反対勢力との間で、いわば「文化戦争」が起きているのだ。後者の非ヒンドゥー教徒にはイスラム教徒の家畜商や食肉販売業者が含まれるが、彼らは商売への打撃を心配している。

 食肉取扱業者たちは牛肉食禁止の法律に抗議し、合法化されている水牛の肉の小売店への供給も拒否している。このことが、サンジャイ・ガンジー国立公園の動物たちのエサ事情に絡んでいるのだ。

 つい最近まで、飼育されている肉食動物には、新鮮な生の牛肉に加えて水牛の肉や鶏肉などがエサとして与えられてきた。ところが、法律制定後は牛肉がひっこめられ、さらに業者の抗議で水牛の肉も供給ストップになってしまったというわけである。

 飼育係の一人であるバブ・ビシュヌコートは、動物たちが鶏肉に食らいつく様子を見て、いい兆候だと感じている。しかし、動物園などの飼育状況を観察している監督官シェイリシュ・バグワン・ディオアは、こうしたエサでは肉食獣がいずれ衰弱していくと懸念する。

 「肉食獣は、新鮮な生の牛肉をエサにすることで血を味わってきたのだ」とディオアはいう。

 だが、問題は動物たちのエサ事情にとどまらない。インドのリベラル派の中には、ヒンドゥー教徒右派の勢力伸長に警戒感を募らせる人たちがいる。ジャーナリストで政治評論家のニージャ・チョードリによると、今回の法律は、モディ政権が進めようとしている農地改革政策をヒンドゥー民族主義組織「RSS」が支持することへの「報酬」として制定されたのだという。

 「モディ政権は、綱渡りの政治をしている。みんなに受け入れられようとして八方美人的になっているけれど、将軍が考えていることと、現場の兵士たちが思っていることは別物である」。そうチョードリはみる。

 牛の保護には、牛を神聖視するヒンドゥー教徒が国民人口の多数派を占めるインドでは過熱しやすい側面がある。牛肉食を禁じる法律制定に反対してきた活動家ノージェハン・サフィア・ニアズは地元紙インディアン・エクスプレスのインタビューに答えて、この法律がキリスト教徒やイスラム教徒、さらには社会の底辺に置かれたカースト外のダリット(不可触民)たちを不当にも苦しめていると指摘する。インドでは牛肉の方が鶏肉よりも比較的安く売られていたのだが、法律でそれが彼らの口にも入らなくなってしまったからだ。

 「この法律はヒンドゥー教徒の共同体だけでなく、イスラム教徒やダリットを直撃した」とニアズは言い、「それは政府当局が私たちの台所に入り込み、何を食べているのかまで詮索(せんさく)するに等しい」と非難する。

 そして、彼女はこう続けた。「個人の自由への挑戦だ」と。(抄訳)

(Neha Thirani Bagri、Nida Najar)

(C)2015 New York Times News Service

 ※訳注=インドの人口多数派を占めるヒンドゥー教徒の間には肉食一般を忌避する傾向があり、菜食主義者が多くいる。特に牛はヒンドゥー社会では神聖視され、ごく一部を除けば牛肉を食べない習慣が残っている。しかし、それはあくまでも宗教上の教義としてであり、法律で規制するものではなかった。マハラシュトラ州議会は1996年に牛肉食を禁じる牛保護法を可決したが、制定に必要な連邦政府の承認を得られず、20年近く棚上げされていた。それが昨年5月に中央にモディ政権が発足したことで、今年に入って承認を得て制定された。

(ニューヨーク・タイムズ・ニュースサービス)
http://www.asahi.com/articles/ASH473JPDH47ULPT002.html

タグ:ハゲワシ
posted by BNJ at 23:46 | Comment(0) | 海外の鳥ニュース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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