2015年07月20日

【東京時間旅行】百貨店の屋上(下)食や緑で大人も子供もくつろげる空間に【産経ニュース2015年7月20日】(ペンギン)

百貨店の屋上のイメージを変えた西武池袋本店の「食と緑の空中庭園」=東京都豊島区南池袋
 戦後、進駐軍の接収を免れた松屋浅草店(台東区花川戸)は昭和21年、1階の売り場に併設して遊園地「スポーツランド」を再開した。24年には屋上に60人乗りの「スカイクルーザー」が設置され、人気が殺到。夜はネオンに輝く姿が浅草の夜空を彩り、戦後復興のシンボルにもなった。

 28年に松屋に入社した松屋150年史編集準備室の佐柳寿雄(ひさお)さん(80)は「飲食店や娯楽の集まる浅草では、銀座店とは違う大衆百貨店にする狙いがあった。買い物客だけでなく、地元の子供たちは親からチケットをもらい、一日中遊んだ」と話す。

 「銀座の百貨店は、40年代に婦人服の品ぞろえを増やすようになるまでは紳士客が中心だった」(佐柳さん)のに対し、浅草店は女性や子供服、下着類を扱い、食品売り場もあった。ワンフロアを使った直営の大食堂も、注目を集めた。

 明治42年、前身の今川橋松屋呉服店に入店した松屋OBの斎藤信義さんは、浅草店の集客策について、「子供を集めるのが一番。上階に遊園地を設け、子供を安全にあずかっている間に奥様は下でお買い物。6、7階は貸ホールにして、稽古事とか、演芸に貸し、女性客を誘致できる」と、その著書に記している。家族そろって出かける百貨店の原型といえる。

スーパー、コンビニ、テーマパークの台頭

 しかし、時代は百貨店からスーパーマーケット、コンビニエンスストアへと、消費行動の変化とともに、小売業の主役を交代させていく。昭和6年から歴史を刻んだ松屋浅草店も、業績不振で平成22年5月、4階以上の営業を打ち切り、屋上も閉鎖された。現在は東武鉄道が24年11月に、昭和6年の建設当時の外観にリニューアルし、「浅草エキミセ」に変わった。

 2階が東武浅草駅で、地階〜地上3階に松屋のほか、専門店や家電量販店、レストランが入る。屋上は東京スカイツリーを望める「浅草ハレテラス」として開放し、観光客や外国人旅行客を呼び込んでいる。

 三越、伊勢丹、高島屋、松坂屋などのほか、西武、東武、京王、小田急、東急といった電鉄系も相次ぎ、屋上遊園地を閉鎖した。ファミリー層を中心に、沿線の利用客を呼び込んできたターミナル百貨店の代表格である西武池袋本店(豊島区南池袋)は今年4月末、フランスの印象派の画家、モネの晩年の大作「睡蓮(すいれん)」のイメージを庭園として表現した「食と緑の空中庭園」を開園した。

 西武池袋本店の屋上遊園地は昭和34年にオープン。全盛期には、メリーゴーラウンドなどの遊具に加え、子象やペンギンがいて、リモコンカーのサーキットも子供たちの人気だった。日本橋高島屋にも25年から4年間、メスの子象「高子」がおり、500キロだった体重が1500キロになり、上野動物園に「引っ越し」したエピソードがある。

地元の公園代わり

 梅雨の晴れ間に恵まれた6月下旬の夜、間接照明に彩られた西武池袋本店の屋上は、テラスレストラン、ビアテラス、フードカートエリア、日中には蓮の花咲くウオーターテーブル、睡蓮の庭のベンチも、仕事帰りの女性客やサラリーマンでいっぱい。池袋駅で私鉄に乗り換えて帰宅する女性会社員は「会社の友人と2人で来た。食べ物もおいしいし、帰り道にこんな気持ちのいい場所で食事ができてうれしい」と話した。

 西武池袋本店の屋上は、平成17年に遊園地が閉鎖されて以降は、屋上の変遷を見続けてきたサボテン愛好家が集まるガーデニングショップと熱帯魚を扱うフィッシュショップを残し、遊休スペースのままだった。

 空中庭園の準備に関わったそごう・西武商品部の冨沢治朗さんは昭和63年入社で、「屋上遊園地はテーマパークの登場で一定の役割を終えた」と振り返る。耐震や防水工事を経て活用案を全社で検討し、生まれたのが屋上庭園だった。

 冨沢さんは「屋上緑化を進める百貨店はあるが、独自の庭園を造ろうというのがコンセプトだった」と説明する。池袋には子供の遊び場が少なく、「地域の人が安心して、いつでも気軽に楽しめる場所にしたい」(営業企画室の金丸芳正さん)との思いもあった。

 オフィス街に隣接する銀座の百貨店と同様、ランチタイムには弁当を買った会社員が訪れ、ベビーカーを押すお母さんたちでもにぎわう。静かな風に吹かれていると、「ここが百貨店の屋上?」といった感覚に陥る。そこには、これまでにない、新しい百貨店の屋上がある。(大塚昌吾)
http://www.sankei.com/region/news/150719/rgn1507190001-n1.html
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