2015年08月18日

エミューが闊歩し、草をついばむ発電所 大分石油がメガソーラーの雑草対策に巨大鳥を導入【日経テクノロジーオンライン2015年8月18日】

金子 憲治=日経BPクリーンテック研究所

 九州の国東半島の西側、周防灘に面した地域は、かつて大規模な干拓によって塩田が開発され、九州有数の製塩地帯だった。現在、その塩田跡地には、続々とメガソーラー(大規模太陽光発電所)が建設され、太陽の恵みを生かす開拓精神が引き継がれている。

 大分県宇佐市松崎も、そうしたメガソーラー集積地の一画にある。海沿いを走ると、かつて塩田だった入り江には、事業主の異なる複数の発電所が次々と現れる。青々とした草の茂っているメガソーラーが多いなか、雑草のほとんどない、こぎれいな発電所がある。出力約0.5MWの「久兵衛1号発電所」と、約1.1MWの「久兵衛2号発電所」だ。

 2つの発電所は、東九州で51カ所のガソリンスタンドなどを展開する大分石油(大分市)が建設した。草がほとんどない理由は、「久兵衛2号発電所」の入り口に近づくとすぐに分かる。フェンスに囲まれた発電所内では、巨大な鳥がパネルの前を闊歩し、地面の草をついばんでいる(図1)。フェンスには「エコ除草中・開放厳禁」と書かれ、エミューとヤギ、ヒツジの写真の入った注意書きが貼ってある(図2)。

図1●「久兵衛2号発電所」に導入したエミュー(出所:日経BP)
図2●フェンスの扉には、家畜による除草を知らせる掲示を貼った(出所:日経BP)

ダチョウに次ぐ背丈になる巨大鳥

 同発電所の中には、ヤギとヒツジに加え、エミューを除草のために放し飼いしているのだ。エミューは、オーストラリアに生息するダチョウの仲間で、成長すると体長は1.6m程度になる。ダチョウに次ぐ背丈の鳥で、動物園でよく見られるほか、オイルや食肉がとれることから、家畜としても飼われている。山口県などには、「エミュー牧場」がある。

 「久兵衛2号発電所」では、エミュー4羽と、ヤギ4頭、ヒツジ2頭を一緒に放し飼いにしている。入り口から1列目のアレイ(パネルの列)には、パネル下に網を張り、脇の管路には、単管パイプと網で作った扉を付けた。こうすることで、フェンスの扉付近には、家畜が近づけないようにし、人が扉を開けて出入りする隙に逃げないようにした。

 入り口から1番手前のアレイとフェンスの間を5〜6mほど網で区切り、プラスチック製の容器を置き、水飲み場にしている。背の高いエミューのために、展望台の骨組みの高い位置にも水入れを設置した。架台に吊るされた石鹸のような塊は、「鉱塩」と呼ばれる家畜用の塩分・ミネラルの補給剤だ。パネルの下を部分的に板で区切り、ヤギやヒツジが出産する場合に使うスペースを確保している(図3)。

図3●発電所の隅に餌と水やり場を設置(出所:日経BP)

「まんべんなく、均等に食べる」

 草の生える時期には、餌は必要ないが、冬は、市販されている飼料を与えているという。発電所からクルマで10分ほどの場所に大分石油の営業拠点があり、そこの担当者が日課として、家畜の様子を確認するようにしている。その際に、冬場は、水に加え、餌も補給している。

 除草の効果は一目瞭然だ。雑草を野放しにしている近くの太陽光発電所内では、イネ科の細長い草の葉や、茎の太いキク科の雑草が数十cmまで伸び、突端などにつぼみや花、種をつけている(図4)。だが、「久兵衛2号発電所」では、背の高い草はまったく見られない(図5)。


図4●同じ塩田跡に建設した太陽光発電所のなかには草で覆われているサイトも(出所:日経BP)
図5●「久兵衛2号発電所」には、背の高い草はほとんどない(出所:日経BP)

 「新芽を好みますが、まんべんなく均等に食べています」。大分石油・新エネルギー部営業課の須賀祐弥課長代理は言う。ヤギやヒツジを活用した除草の試みでは、「草によって好き嫌いがある」との声もあるが、ヤギ、ヒツジ、エミューという3種類の家畜を使っていることが、背の高い草の食べ残しがないことにつながっているとみられる。

 大分石油では、「久兵衛1号」と「同2号」の他にも2カ所のメガソーラーを稼働済みで、小規模なものも含めると、全部で5.8MWの太陽光発電所を運営している。このなかで家畜を放牧しているのは、「久兵衛2号」だけで、ほかは人手で刈った後、枯草を「久兵衛2号」に運び込んで家畜に食べさせている。家畜をほかのサイトに移動させることも検討したが、足の早いエミューやヤギを捕まえることは容易でなく、ほかのサイトは地形的に完全にフェンスで囲っていない場合もあるなど、課題もあるため、刈った後に食べさせる形にした。

 それでも、「人手による除草は、刈った草の処理に経費や時間を費やすため、ほかで刈った草を食べてくれることは、たいへんありがたい」(須賀課長代理)と言う。

家畜購入代は4羽、6頭で100万円以下

 そもそも、「久兵衛2号」の雑草対策だけでも、家畜による除草は、経済的に利点が大きいという。大分石油では、家畜をすべて購入した。「格安で買えたこともあり、エミュー4羽、ヤギ4頭、ヒツジ2頭の購入費は100万円以下で収まる」という。一方、メガクラスの発電所の場合、年に2回、除草を依頼すると100万円かかるという(図6)。冬の餌代などのコストを考慮しても、数年で元が取れる計算になる。


図6●「久兵衛1号発電所」は人手で草を刈り、「久兵衛2号」の家畜に食べさせている(出所:日経BP)

 大分石油が家畜を導入することになったのは、メガソーラー建設中に雑草対策を検討し始めてからだった。「ヤギ除草の取り組みを知り、草食動物を調べるなかで、ヤギのほか、ヒツジやダチョウも検討し始めた。永岡壮三社長が動物好きなこともあり、ダチョウ牧場を訪れて話を聞いたこともある」と須田課長代理は打ち明ける。

 「ダチョウは成長すると2mを超えるうえ、気性が荒く飼うのは難しいと判断し、同じ飛べない鳥の仲間でも、少し小型で大人しいエミューを導入することにした」という。

エミュー2羽とヒツジ1頭が死ぬ

 とはいえ、前例がないだけに試行錯誤もあった。2013年6月に「久兵衛2号」が稼働した後、7月に家畜を導入し、すでに2年経った。実は、エミューは当初、6羽だったが、1年目に2羽が死んでしまった。

 1羽目が死んだ原因は、ストレスではないかという。「6羽のうち、死んだ1羽は当初から環境に馴染めなかったようで、仲間とは別に過ごす時間が多かった」(須賀課長代理)と振り返る。エミューが死んだ後、家畜保健衛生所に処理方法について相談し、家畜伝染病の可能性などを調べるために解剖したが、これといった死因は分からなかったという。

 これに対し、死んだ2羽目のエミューの場合、解剖の結果、胃からボルトが発見された。エミューは、ニワトリと同じように砂嚢と呼ばれる袋に小石を溜め、食べたものをすりつぶしてから消化する。工事中に落としたボルトを、小石と間違って飲み込んでしまった可能性がある。そこで、大分石油では、発電所内の地面にボルトやネジなどが落ちていないか調べ、すべて回収したという。

 1年目には、ヒツジも1頭、死んでしまった。ヒツジは当初、2頭導入したが、間もなく1頭生まれ、3頭になっていた(図7)。そんなか、夜の間に腹を裂かれ、出血多量で死んでいるのが見つかった。「フェンスと地面の隙間から侵入した野犬かタヌキの仕業でないか」とみている。この後、フェンスの下にブロックを並べてコンクリートで固めることで、外部から肉食の小動物が入れないようにした(図8)。


図7●外部から侵入した動物によってヒツジが殺される事件も(出所:日経BP)
図8●野犬やタヌキが侵入できないようにフェンス下をブロックで固めた(出所:日経BP)

ヤギの角でケーブルが損傷

 こうした対策を打ったことで、2年目には、家畜の飼育に関して、ほぼ軌道に乗ってきたという。一方で、家畜が発電設備を痛めるなどの影響はないのだろうか。

 高所に上る習性のあるヤギは、太陽光パネルの上に登ってしまう恐れがよく指摘される。この点、「やはり、ヤギはパネルに上ってしまうことはあります」と須賀課長代理は言う。


図9●左がザーネン種のヤギ、右がトカラヤギ(出所:日経BP)
[画像のクリックで拡大表示]

図10●ケーブルラックからパネルに上る。ラック上の黒い粒はヤギの糞(出所:日経BP)
図11●パネル裏のケーブルのたるみをテープで留めた(出所:日経BP)

 ヤギは、トカラヤギとザーネン種の2種を導入した。トカラヤギは体重20〜35kgと小型で淡褐色、丈夫で粗食にも耐えるのが特徴だ。ザーネン種は体重60〜90kgと大型で白く、日本で最も多く飼われている。いずれも角がある。当初、この2種を10頭、放牧して飼育し、環境にあったものを残した結果、トカラヤギ3頭、ザーネン種1頭になったという(図9)。

 環境に合ったものを残したとはいえ、パネルに上ってしまうのは、発電所の設計に原因がある。もともと「久兵衛2号」は、建設中に家畜の導入を決めたため、ヤギを想定して設計していない。パネルの設置高を1mとし、ケーブルラックを地面から50cm程度上げて設置したことで、ラックからパネルの落差は50cmほどしかない。実際、ヤギはラックからパネルに上ってしまうことが多いという(図10)。

 「ただ、パネルに上ることによる表面の傷は発電に支障ない程度で、むしろ問題になったのは、ヤギの角がパネルの裏側のケーブルに引っ掛かり、接続部が外れてしまうことだった」と、須賀課長代理は打ち明ける。そこで、パネル裏のケーブルで、たるみ(余裕)の大きい箇所は、テープでパネル裏に固定して、角に引っ掛からないようにした(図11)。また、今後は小柄なトカラヤギを主体にしていく方針と言う。

地域の農家が枯草の差し入れ

 7月中旬に取材で、「久兵衛2号」を訪れた際も、エミューとヤギ、ヒツジは、それぞれ干渉せずに、群れを作って黙々と草を食べていた。エミューに近づくと、ゆっくりと離れていくだけで、それほど人を恐れない。発電所に滞在した約2時間で、一度だけ「ボンボン」とドラムをたたくような鳴き声を発した。

 家畜を飼っていることが知られると、近くの農家が刈り取った草を持ってきて、差し入れしてくれることも出てきたという。また、警察から、「迷子のヤギがいるので一時的に預かってほしい」との依頼があり、引き受けたこともあったという。メガソーラーに住む家畜たちは、地域社会との結びつきを強める、という重要な役割も果たしている。

●設備の概要
発電所名 久兵衛1号発電所
住所 大分県宇佐市大字松崎字肥塚2491番地
発電事業者 大分石油
設置面積 1万1448m2
出力 約0.5MW(495.5kW)
設計・施工 大分石油
O&M(運用・保守) 大分石油
太陽光パネル ソーラーフロンティア製CIS化合物型
パワーコンディショナー(PCS) 東芝三菱電機産業システム(TMEIC)製
基礎 インフラテック製H型PCパイル杭
架台 日本軽金属製アルミ架台
着工日 2013年2月
系統連系開始日 2013年8月
●設備の概要
発電所名 久兵衛2号発電所
住所 大分県宇佐市大字松崎字肥塚2492番地
発電事業者 大分石油
設置面積 2万475m2
出力 約1.1MW(1102kW)
設計・施工 大分石油
O&M(運用・保守) 大分石油
太陽光パネル ソーラーフロンティア製CIS化合物型・7600枚
パワーコンディショナー(PCS) 日立製作所製
基礎 インフラテック製H型PCパイル杭
架台 日本軽金属製アルミ架台
着工日 2013年2月
系統連系開始日 2013年6月

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