2015年09月09日

旅客機と渡り鳥「への字」編隊の"共通点"知れば知るほど面白い「航空力学」【東洋経済オンライン2015年9月9日】

渡り鳥とジェット旅客機の共通点は?(写真は、翼端渦の発生を減らし、空気抵抗を小さくしてくれるウイングレット)
渡り鳥が長い距離を移動するとき、大きな「への字」を描いた編隊飛行をします。これは、なぜでしょうか?

渡り鳥は、決して遊びで編隊飛行している訳ではなく、空気抵抗をできるだけ小さくして長距離飛行を可能にするため、「へ」の字を描いています。「空気抵抗を小さくする」というと、自転車競技のように縦一列に並び、先頭を交代制にするのがいいようにも思えますが、空を飛ぶ場合は異なります。

なぜなら、「翼端渦」(よくたんうず、翼端から発生する渦)の影響で、後方では、空気抵抗が小さくなるどころか安定した飛行すらできないためです。

この翼端渦のエネルギーは非常に強く、その後方には強い乱気流が発生します。数分前に通過した飛行機でも、その後流に入ると、激しく揺れる場合があります。拙著『カラー図解でわかる航空力学「超」入門』でも解説しておりますが、航空交通管制上特に離着陸時には危険なため、最大離陸重量により、

H(13.6トン以上)
M(7〜13.6トン未満)
L(7トン以下)


という、3つの「後方乱気流区分」があり、区分ごとに後方乱気流を考慮した時間、または距離の間隔が設定されています。渡り鳥は、この後方乱気流を知っているので、縦一列に並んでは飛ばないのです。

では、なぜ「への字」編隊飛行なのでしょうか?それは翼端渦の影響を小さくするためです。

細長い翼ほど翼端渦の発生が少なくなります。「への字」に並び、見かけ上の翼を長くすることで翼端渦の発生を減らし、空気抵抗を小さくしているのです。そして、編隊のすべての鳥の翼が空気力学的にひとつの翼になるように、すべての鳥の翼端と翼端を同じ距離に保ち、「への字」を描いています。その間隔は、翼の全長の25%という説もあります。

飛行機もまったく同じです。翼を細長くすると翼端に発生する渦を少なくできます。しかし、あまりにも細長い翼にすると強度上問題がありますし、翼内燃料タンクの容量や空港施設上の問題が発生します。

そこで、細長い翼と同等の空力的効果が得られる「ウイングレット」を取り付けています。直角に近い角度で翼端に取り付けられた小さな翼がウイングレットです。

このウイングレットは、空気抵抗を小さくするほんの一例に過ぎません。飛行機の空気抵抗を減らす工夫は、ほかにもたくさんあります。この工夫のための基礎知識が「航空力学」です。

燃料の消費量は自立航法の実現で激減

渡り鳥をプラネタリウムの中に入れて実験したところ、星の位置を参考にして長距離飛行していることがわかりました。一昔前の飛行機も、夜間フライトでは鳥と同じように星座から自分の位置を推測する「天測航法」と呼ばれる方法で、太平洋横断飛行をしていました。

現在では、星座を参考にしなくても飛行が可能な「自立航法装置」を備えています。この自立航法装置は、星が見えない天候でも安心して飛行できるだけではなく、燃費節減にも有効な装置となっています。

主に巡航に使用する飛行機の通路である「航空路」は、原則として「地上無線標識」を結んだものです。そのため、航空路は無線標識の設置場所によりどうしても多少折れ曲がった通路になってしまいます。

しかし、自立航法装置を装備した現在のハイテク機は、「広域航法(RNAV)」と呼ばれる航法により、無線標識を結んだ航空路以外でも自分の位置を知り、正確かつ自由に飛行できるようになりました。そこで、無線標識を結んだ航空路に加えて「RNAVルート」と呼ばれる航空路が新たに設置され、現在の航空路の主流となっています。

RNAVルートは、直線距離が長い航空路となり、飛行時間を短縮できるようになりました。たとえばRNAVルートを飛行することで3分間の時間短縮ができたとすると、500リットル以上の燃料を節約できます。

1年間では、ドラム缶(200リットル)にして1000本近くの燃料を節約できることになります。あるエアラインでは、東京〜福岡便は1日あたり18便あるので、この路線だけでドラム缶約1万6000本の燃料を1年間に節減できる計算《(500リットル×18便×365日)÷200リットル》になります。

このように、飛行機の空気抵抗を減らす工夫以外でも、航法装置の発達で、燃料を大きく節約できることがわかります。

渡り鳥は、小さな力で長い距離を飛べる、最も省エネとなる高度と速度を選んで飛行していることも知られています。

飛行機も、鳥と同じように最も燃費がよくなる高度と速度が存在します。最も燃費が良くなる飛行高度を「最適高度」といい、燃費がいちばんよい速度で巡航する方式を「最大航続距離巡航(MRC:Maximum Range Cruise)」といいます。最適高度を最大航続距離巡航で巡航するのが、「最も燃費がよい方法」です。渡り鳥は、この巡航方式で長距離飛行を乗り切っているのでしょう。

空気の状態に合わせてきめ細かく飛行速度を設定

しかし渡り鳥とは異なり、飛行機の運航には燃料費以外にも、着陸料や停留料などの公租公課、整備費、機材費、保険費、人件費などの「タイムコスト」を考えなくてはなりません。このように、燃費以外のコストも考慮した「経済巡航(Economy Cruise)方式」が主流となっています。

運航にかかわるトータルコストは、

(トータルコスト)
=(燃料費)+(タイムコスト)
=(燃料単価)×(燃料消費量+タイムコスト/燃料単価)
となります。ここで、

(タイムコスト)/(燃料単価)=(コストインデックス )
とすると、

(トータルコスト)
=(燃料単価)×(燃料消費量+コストインデックス)
となります。

コストインデックスは、1便を飛ばすために必要なタイムコストと燃料単価の比ですが、タイムコストを考えない――つまりコストインデックスが0のときには、燃費だけを考えた速度、最大航続距離巡航(MRC)となります。燃料単価が高い場合にはコストインデックスを小さく設定、タイムコストを重視するにはコストインデックスを大きく設定すればよいことになります。

このように、コストインデックスを基準にして設定される速度のことを経済速度(Econ Speed)といい、この経済速度で巡航する方式を経済巡航といいます。

コストインデックスの設定値は、エアラインの方針により異なっているのはもちろん、同じエアラインでも路線により設定値を変えるなど、細かく速度を設定して運航しています。

なお、トータルコストは、単位距離(対地速度×単位時間)を飛行するのに要するコストなので、上層風の影響も考慮しなければなりません。向い風ならば、航続距離を大きくするため、およびタイムコストを小さくするために飛行速度を速くし、追い風ならば、逆に飛行速度を遅くする必要があります。

飛行管理システムの実力

たとえば、冬期に小松空港から羽田空港に向かう場合、飛行経路は「小松上空‐名古屋(小牧)‐河和」(V52という航空路)と、「河和‐浜松‐大島‐房総半島」(V17という航空路)です。小松上空からの飛行はジェット気流による横風を受けますが、浜松上空で東に向けて変針すると、一気に強い追い風となるため、経済速度が大きく変化します。

このようなきめ細かい速度設定は、自立航法装置、推力制御装置、自動飛行装置などをコントロールする飛行管理システム(FMS)と呼ばれる機上コンピュータの発達で可能になりました。

飛行重量、飛行高度、上層風、外気温度などからFMSが経済速度を算出し、速度を維持できます。周りの空気の状態により逐次変化する速度設定を、手動で制御することは不可能です。

飛行管理システムのプログラムは航空力学を元に作成されています。このように、航空力学は、航空工学の基本ともいえます。
http://toyokeizai.net/articles/-/83101
http://toyokeizai.net/articles/-/83101?page=2
http://toyokeizai.net/articles/-/83101?page=3
http://toyokeizai.net/articles/-/83101?page=4

ttps://archive.is/WAqUZ
ttps://archive.is/hrE8R
ttps://archive.is/9YMNh
ttps://archive.is/VnwDz

タグ:渡り鳥
posted by BNJ at 23:53 | Comment(0) | 鳥類一般ニュース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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