2015年11月18日

刻む記憶:ニュージーランド 森を豊かに「カカポを守ろう」 /徳島【毎日新聞2015年11月18日】

 ■防御できず絶滅寸前

 人間の膝丈ほどのずんぐりとした丸い体は、森に溶け込むような深緑や黒、黄色の美しいグラデーションの羽毛に覆われていた。横倒しになった木の幹をのっしのっしと歩く緩やかな動きに思わず見入る。まっすぐに下を向いた小ぶりのくちばしと、その上の真っ黒な丸い目が愛らしい。

 ニュージーランドだけに生息する世界最大のオウム「カカポ」だ。大昔に超大陸ゴンドワナから離れたニュージーランドでは、他の大地で繁栄した哺乳類に代わり、ほとんど天敵のいなかった鳥類が独自に発達した。中には国鳥キウイのように飛ぶのをやめて地面で生きる鳥も現れた。カカポもその一つだが、今では125羽しかいない絶滅寸前の種だ。

 首都ウェリントンの自然保護施設で、「シロッコ」と名付けられたオスのカカポが特別に公開されていた。

 ニュージーランド自然保護省レンジャーのアリーシャ・シェリフ(34)が、腕にのせたシロッコにカボチャの種を与えながら「かつては『木を揺するとカカポが落ちてくる』と言われるほど全土にありふれた鳥だった」と話した。絶滅寸前に追い込んだのは、約700年前のマオリ人や、約200年前に始まった欧州からの人間の入植に伴って入り込んで増殖したネズミなどの哺乳類だ。

 「カカポは地面で暮らし、体からは甘い芳香を放ち、防御手段もない。だから簡単にネズミなどに見つかって殺される」とシェリフは嘆く。数年に1度しか繁殖しないのに、母鳥は夜、巣に卵やひなを残して餌を探しに出かける。大人から卵まで、新たな天敵に対して余りに無防備だった。

 ■実り始めた市民活動

 政府が必死になって探したが、1973年までの約20年で見つかったのはわずか6羽で全てオス。その後数年の集中調査でもオス18羽しか見つからなかった。77年に離島でメスを含む集団が見つかったが、危機的状況は変わらなかった。

 政府は89年「カカポ回復計画」を立ち上げた。全てのカカポを、ネズミを一掃した安全な離島で保護し、繁殖を進めるのが柱だ。繁殖期には担当者がつきっきりで卵やひなの状態を点検し、親鳥用の餌も調える。20年余りの努力で約50羽から個体数を増やした。

 「計画の目標は繁殖可能なメスを150羽確保すること。幸い数は増えているけど、まだ3分の1くらいだ」とシェリフ。「目標数に届いた後、本土にカカポを戻すのが究極の夢だ」

 ■わなでネズミ駆除

 南島北端のネルソン市郊外。ブルース・トーマス(68)と生態学者のローリー・テーラー(84)が、森の中で地面や木の根元に仕掛けたネズミ用のわなを点検していた。

 2人は「固有種の鳥がすめる環境を」との思いからネズミなどの駆除に取り組む市民だ。かつては薬剤による駆除に取り組んでいたが「薬剤耐性を持つネズミが現れているし、離島以外の陸続きの土地ではいつでもネズミが侵入する。わなは簡単に持続できる方法だから」とトーマス。

 生い茂る木の枝や葉を見ながらテーラーが「森が若返っているね」と満足げにつぶやく。「ネズミは木の実や芽を食べて森を劣化させる。ネズミの駆除は、森を豊かにするので鳥にとって都合が良い」とトーマス。扇のように広がる尾が特徴で「ファンテール」と呼ばれる固有種の鳥が木々の間を飛び回っていた。

 ■“聖地”づくりも

 ネルソン市の山林では、民間団体による固有種のための“聖地”づくりも進んでいる。約700ヘクタールの山林の外周約14キロをフェンスで囲い、ネズミなどの外来哺乳類を内部から一掃するのだ。フェンスは2016年3月の完成を目指して建設中だ。

 団体代表のデービッド・バトラー(62)は「これは地元コミュニティーによる事業で、多くの市民が活動資金を出資してくれている」と語る。市民の役割は資金提供だけでない。約400人がボランティアとして、案内所の管理や歩道の整備、わなの設置、鳥の個体数調査などを担う。

 02年の構想開始から10年余り。フェンス完成後、薬剤を使ってネズミなどを完全に排除し聖地はできあがる。バトラーは固有種の爬虫(はちゅう)類、ムカシトカゲやサドルバックという鳥の名などを次々と挙げ「駆除が済んだらこの地に放ちたい。17〜18年にはキウイも入れ、将来的には(固有種の鳥の)『カカ』の繁殖施設もつくりたい」と熱く語る。

 カカポに関する著作もあるバトラーは「ネルソンの森にはかつてカカポがすんでいた。だからこの地にカカポを取り戻したいし、そうなる時が来ると信じている」と力強く語った。(文・斎藤香織、敬称略)
http://mainichi.jp/area/tokushima/news/20151118ddlk36040603000c.html

ttps://archive.is/9IJGP

posted by BNJ at 23:50 | Comment(0) | 海外の鳥ニュース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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