2015年12月23日

小笠原諸島のクリスマスは海鳥の巣立ちを合図にスタート!【dot.ドット朝日新聞出版2015年12月23日】(オナガミズナギドリ)

2015年、母島の集落掲示板に掲載された「巣立ち終わり」のチラシ(画像提供:宮城雅司)

翼開長1mほどにもなるオナガミズナギドリ。小笠原諸島の無人島と、母島で営巣する。(撮影:有川美紀子)

子どもたちに放鳥シーンを見せることも。こうした試みで一緒に島に生きる生きもののことを知っていく(2009.12母島にて撮影:有川美紀子 )

「Merry Christmas!オナガミズナギドリの巣立ちがほぼ終わりました!」

 12月中旬、小笠原諸島・父島、母島の集落内掲示板に、こんな見出しのチラシが張り出された。そのお知らせと同時に、父島では二見港近くにある大きなガジュマルの木に、毎年恒例のクリスマスイルミネーションが点灯された。

 鳥の巣立ちとイルミネーションの点灯にどんな関係があるのだろう?

* * *

 毎年11月中旬から12月中旬、小笠原諸島ではその夏に生まれたオナガミズナギドリの若鳥たちが巣立ちを迎える。「長年のデータから、巣立ちの時期は、季節の変わり目に冬型の気圧配置になった後、強い低気圧が通過するときが多いと分かってきました。巣立ちは夜です。暗い海に初めて飛び立つ彼らは、光があるとそちらに誘引される性質があるのです」そう語るのは、15年以上もこの鳥の調査をしている、NPO法人「小笠原自然文化研究所」の鈴木創さん(50)だ。

 小笠原の有人島、父島は人口約2100人、母島は約460人足らずだが、夜、電気がつく港湾施設や公共施設、主要な箇所の街灯や家屋の明かりなどは、暗い空に飛び出した鳥の目にははっきり明るく見えるのだろう。光に誘引されて島に飛んできた彼らは、街灯や建物に飛び込み、衝突して脳振とうを起こし地面に落ちてしまうことがあるのだ。年ごとに数は異なるが、だいたい数十羽以上の不時着がある。

 脳振とうだけなら、やがて目を覚ますが、困ったことにオナガミズナギドリは平らな陸地から直接飛び立つことができない。彼らの翼開長1mにもなる長い翼は、風を捉え、少ない羽ばたきで長い間海面を飛べるような形をしている。飛び立つときは水かきのついた足で海面を滑走して飛び立つが、こうした体は陸地から飛び立つには不向きなのだ。

 不時着してしまうと、その場にぼうぜんとたたずんでいるだけだ。あるいは、習性によってものの陰に頭を突っ込んで隠れたり、隅っこに身体を寄せたりしてじっとしている。そうしている間に、交通事故に遭ったり、ネコに襲われたりして命を落としてしまうことになる。

 鈴木さんたちのNPOは、15年ほど前から東京都の傷病鳥獣保護の仕事を請け負っていた。保護活動を始めたころは、早朝になってから道路を見て歩き、夜の間に不時着した鳥を保護したり、車にひかれてしまった死体を回収したりしていた。 その後、別の業務でオナガミズナギドリの繁殖地となっている父島の沖1kmほどのところにある南島で鳥の調査を行うようになったのだが、この仕事によって海鳥たちの生活誌が見えてきて、保護の考え方が変わったという。

「繁殖地のデータと、不時着の鳥のデータを分析していると、オナガミズナギドリの若鳥たちが何時頃に飛び立つかとか、いつぐらいから巣立ちだすかなどが見えてくるようになりました。すると、あれっ、もしかしたら不時着した鳥が事故に遭うのを予防できるんじゃないか? と発想が転換されたんです」(鈴木さん)。

 オナガミズナギドリは、南島では繁殖期に400近い巣を作る。巣立ちは11月中旬〜12月中旬。巣立つのは夜。父島で日没から午後9時、午前0時、午前3時と夜間パトロールしていくと、ほぼ午前0時前までが不時着のピークと分かった。そこで鈴木さんたちは自主的に飲み屋を回り、「鳥が落ちていたら連絡ください」と携帯番号を書いたチラシを貼らせてもらった。飲み屋帰りの人々が、鳥を見つける確率が一番高いからだ。あわせて、自分たちもパトロールを行い、不時着している鳥を見つけては保護するようにした。すると、以前は朝、あちこちの道路で見かけたれき死体が激減するようになったのである。

 もうひとつが、鳥を引き寄せてしまう光源についての取り組みだった。少しでも光を少なくして、鳥を誘引しない方法は無いものか?小笠原では、父島、母島それぞれの中心部にあるガジュマルの木に、村や青年会がクリスマスイルミネーションを飾る。冬も暖かな南の島とはいえ、やはりクリスマス気分は盛り上げたい。しかし、鈴木さんたちは「オナガミズナギドリの巣立ちが終わるまで、ライトアップを止めることはできないだろうか」と村に呼びかけた。

 民宿やペンションも、この時期、観光客のためにイルミネーションを飾るので、1軒1軒、訪ねて話をした。すると、自然ガイドもやっており、村のイルミネーションのすぐ向かい側にあるペンションのオーナーが「鳥のためにライトアップやめましょうっていうマイナスの表現より、『この鳥の巣立ちが小笠原のクリスマスを連れてきます』っていう言い方にしたらいいんじゃない? 協力するよ」と言ってくれた。それ以来、このペンションは鈴木さんたちから「巣立ちが終了しました」と連絡が来るまで、ライトアップはしないようになった。

 こうして少しずつ、この問題も住民に知られるようになり、2008年には母島の住民の間から「この時期だけライトダウンしてはどうか?」という提案が出た。都営住宅の廊下や、無くても困らない場所の街灯などが消されるようになった。

 島内の施設でも、漁協の製氷施設が建て替えの際、白い建物が光を反射して白く浮かび上がるのを防ぐためにライトの位置を考慮した。また、浜辺近くにある「小笠原ビジターセンター」では、海岸部にあるフットライトをこの時期消灯するようになった。ライトダウンが島で受け入れられた背景には、産卵時期、同じように光に誘引されるアオウミガメに配慮したライトダウンが行われていたからかもしれない。小笠原は日本最大のアオウミガメ産卵地なのだ。

 2009年ぐらいからは小笠原自然文化研究所の働きかけで、東京都小笠原支庁もこの動きに大きく関わり、それまで鈴木さんたちが自主的にやっていた「オナガミズナギドリレスキュー講習会」を引き取り、父島母島両島で開催するようになった。住民に向けて「オナガミズナギドリってこんな鳥」と生態を解説したり、保護された個体がいれば、都の鳥獣保護員の解説付きで実物をみせて鳥の色や顔つき、におい(油のようなにおいがする)を実感してもらうようにしている。

 都の鳥獣保護員であり、小笠原自然文化研究所のスタッフでもある鈴木直子さん(49)は、
「小笠原にはオナガミズナギドリのほか4種のミズナギドリがいます。そのうちの1種は、かつて絶滅したとされていたところ、2012年に小笠原海域で奇跡の再発見を遂げた世界的希少種、オガサワラヒメミズナギドリです。今でも世界で20羽程度しか確認されていないこの鳥も、不時着する可能性があります。
 まだまだミズナギドリの不時着情報は島全体に行き渡っていませんが、“小笠原のクリスマスはオナガミズナギドリが運んでくる”をキーワードに、情報を広めていきたいと思います」

と、今年の巣立ち後に点灯されたクリスマスイルミネーションを見ながら語ってくれた。(島ライター:有川美紀子)
http://dot.asahi.com/dot/2015122200084.html
http://dot.asahi.com/dot/2015122200084.html?page=2

ttps://archive.is/mRcH9
ttps://archive.is/uA2EZ

posted by BNJ at 23:15 | Comment(0) | 野鳥ニュース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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