2016年03月06日

(関西食百景)ゆっくり育って下さいな■愛媛・鬼北のキジ【朝日新聞デジタル2016年3月5日】

キジ肉を炭火で焼く。落ちた脂が燃え、一瞬炎が広がる=大阪市北区

「ワインちゃん」で用意されるキジ肉を使った特別コース料理=大阪市中央区、青山芳久撮影

■愛媛・鬼北のキジ

 飼育小屋に入ると、雄キジの色鮮やかな羽に目を奪われた。

今回の「ここだけの話」
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 千メートル級の山に囲まれ、四万十川の支流、広見川沿いに広がる愛媛県鬼北(きほく)町。しんと冷え込んだ1月末、キジ農家の藤城英秋さん(65)と妻のけい子さん(65)は、出荷作業に奮闘していた。

 飛び回るキジを傷つけないよう、直径60センチほどの魚釣り用の網でひょいとすくい、羽の根元をつかんで手際よく出荷用ケースに入れていく。「寒くなると脂が乗って身は締まる。だから冬場に一気に出荷するんよ」と英秋さん。

 キジを育てて11年目。雌雄合わせて年に約3500羽を飼育する。かつて建設業を営んでいた英秋さんが手作りした飼育小屋は100平方メートルほどの部屋が九つある。生まれた時期ごとに分けられたキジは、それぞれの部屋で自由に動き回り、止まり木で羽を休める。「自然に近い方が肉付きがいいけんね」

 春に孵化(ふか)してから出荷まで200日以上。50日ほどで出荷するブロイラーの4倍だ。「大変やけど、その分歯ごたえが生まれ、脂もしつこくない。肉のうまみが凝縮されるんよ」と、けい子さん。

 鬼北町でキジの生産が始まったのは24年前。それが今や、国内有数の産地だ。過疎に悩む町の自慢の特産品に成長した。

ログイン前の続き■過疎の町の美しき鳥 深み増し羽ばたく

 愛媛県鬼北町は人口1万人あまりの山あいの町だ。この地でキジの飼育が始まったのは1992年。過疎と高齢化が急速に進む地域を活気づけようと、合併前の旧広見町などが、隣の高知県梼原(ゆすはら)町のキジ農家から500羽を仕入れたのが始まりだ。

 「キジの美しいたたずまいが自然豊かな町のイメージにぴったりやった」。当時、町職員として携わった入舩秀一さん(66)は、そう振り返る。

 当時は地域あげてキジの飼育を試みる例は少なく、差別化を図ることができた。育ててみると、豚や牛に比べて力仕事が少ないなどの利点もあり、飼育数が徐々に増えて特産品として定着。10年ほど前には、ビール会社のプレゼントキャンペーンでキジ肉が選ばれ、知名度がアップ。販路開拓につながった。

 現在、8軒の農家が年間約1万3千羽を飼育。共通のマニュアルを導入し、品質にばらつきが出ないよう気を配る。入舩さんは「キジは低脂肪でアミノ酸が豊富。おいしいだけやない。体にもいいんよ」と胸を張る。

      ◇

 町内で育てられたキジの加工・販売を一手に担うのが、町の農業公社「鬼北きじ工房」だ。特徴は、さばいたキジ肉を48時間、低温で「熟成」させること。「うまみ成分のイノシン酸がぐんと増え、コクと深みが出るんです」と、工房長の丸石則和さん(35)。

 熟成させた肉は零下30度のエタノール液に浸して急速に凍らせる。解凍時に水分が出て肉がパサパサになるのを防ぎ、うまみを保ちながら通年出荷ができる。今では、「鬼北熟成きじ」のブランドで、全国のレストランやホテルなどと取引する。

      ◇

 鬼北熟成きじは100グラム当たり約千円と高価だが、その味わいのファンは多い。

 大阪市北区の居酒屋「酒や肴(さかな)よしむら」ではここ数年、鳥は鬼北のキジしか扱っていない。店主の吉村康昌さん(45)は「鶏肉よりも味が濃く、鼻に抜ける香りがいい。初めてのお客さんも、ほぼ100%おいしいって言いはります」。

 定番の「鬼北熟成きじの炭火焼き」は、肉本来の味を引き立てるため、味付けは塩のみ。光沢のある紅色の肉をあぶると何とも香ばしい。一切れいただく。かむほどに滋味深い味わいが口いっぱいに広がる。これはくせになりそうだ。(文・野村杏実 写真・青山芳久)(文・野村杏実 写真・青山芳久)

     ◇

 鎌倉時代の吉田兼好の随筆「徒然草」には、こんな一節がある。

 《鯉(こい)ばかりこそ、御前にても切らるるものなれば、やんごとなき魚なり。鳥には雉(きじ)、さうなきものなり》

 コイは天皇の前でもさばける高貴な魚。鳥ならキジで、他に並ぶものはない――という意味だ。現在は里山も猟師も減り、口にする機会は少なくなったが、正月の宮中ではあぶったキジ肉と熱燗(あつかん)で作る「雉子(きじ)酒」が今も提供される。フランス料理ではキジ肉は一般的な食材だ。

 鬼北町で飼育されているのは外来種のコウライキジで、在来のニホンキジよりも一回り大きく、肉が多く取れるという。古くから伝わる味を食卓に届けようと、鬼北きじ工房(0895・48・0771)はきじ鍋やきじ飯のセットなど家庭向け商品も販売している。

■百店まんてん(ワインちゃん 瓦・町・路・地)

 看板を出さない隠れ家的な創作料理店。昼はランチ、夜はお任せのコース料理(要予約)のみ。コースの前菜やメインでキジ肉を提供する。キジ肉がない日もあるので要確認。午前11時半〜不定時、午後6時〜10時半。大阪市中央区瓦町3の2の3。電話06・6210・1927

■訪ねる

 ◆成川渓谷 足摺宇和海国立公園の一角にあり、四季折々の景色が楽しめる。近くには温泉もあり、宿泊施設「成川渓谷休養センター」ではキジ料理が味わえる。電話0895・45・2639

 ◆道の駅「森の三角ぼうし」 鬼北町の特産品を販売。町名にちなんだ鬼の巨大モニュメントが名物。電話0895・45・3751
http://www.asahi.com/articles/ASJ2S5PYNJ2SPFIB00M.html

ttp://archive.is/e6EgM
(関西食百景)ここだけの話―3月5日配信【朝日新聞デジタル2016年3月5日】

posted by BNJ at 21:05 | Comment(0) | 養鶏畜産ニュース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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