2016年07月02日

自然保護のために森の木を切る?!イヌワシが暮らす森の試みとは【dot.ドット朝日新聞出版2016年7月2日】

赤谷の森がなわばりのイヌワシのペア

赤谷の森

伐採前の試験地の様子

皆伐後の試験地


 森の木を切ることが、自然を守ることになる……。

 こんな話を聞いた。それも木を間引く間伐などではなく、森の一部を丸ごと切り払ってしまう皆伐をし、森を草原にすることが自然回復につながるというのだ。いったいどういうことだろうか。

 場所は群馬県みなかみ町の北部、新潟県境に広がる標高差は1400メートルにもなる「赤谷(あかや)の森」である。広大な森は、1万ヘクタールにも上る。この土地を、地域住民団体である「赤谷プロジェクト地域協議会」と、林野庁関東森林管理局、(公財)日本自然保護協会(NACS-J)の三者が、生物多様性の保全管理と持続的地域作りをするために2004年から協働プロジェクトとして取り組んでいる。

「もともとこの森は林野庁が国有林として管理を行っていた場所です。そうした場所の管理を自然保護団体や地域住民も加わって行っていこうというのは全国的にもかなり斬新な取り組みと言えるでしょう」(NACS-J 赤谷プロジェクト担当 松井宏宇さん)。

 皆伐がなぜ自然保護につながるのか。その理由はイヌワシにあった。イヌワシは成鳥になると翼長2m近くにもなる大型の猛禽類。ペアごとになわばりを持ち、ペアとなった成鳥は1年を通してその中で暮らす。なわばりの範囲は平均で約60平方キロにもなる。山手線の内側の面積が約63平方キロなので、どれだけ広い空間が必要か分かるだろう。

 悠々と空を飛ぶ姿は美しく、また獲物を狙って滑空するスピードは時速240キロにもなり、その堂々たる姿やスピード感から“天狗のモデル”とも言われている鳥である。

 日本の空の王者ともいえるこの鳥は、環境省の第4次レッドデータリストでは絶滅危惧種TB類(EN)に指定されており、日本ではわずか200つがい、個体数は500羽程度しかいないとされている。そして、赤谷の森には1つがいのイヌワシがいるのだ。


「イヌワシは狩りをしてノウサギやヤマドリ、大型のヘビ類などを食べています。彼らの狩りは樹木の少ない開放された草原のような開放地や、木と木の間が空いている老齢な自然林で行われます。人工林のように空間がない森だと、身体が大きいため中に入っていくことができず、狩りができないんです」(松井さん)。

赤谷の森がなわばりのイヌワシのペア

赤谷の森
赤谷の森

伐採前の試験地の様子
伐採前の試験地の様子

皆伐後の試験地
皆伐後の試験地



 1950年代から行われてきた拡大造林政策。木材を採るために、国を挙げて広葉樹の茂る森を伐採し、スギやヒノキ、カラマツ、アカマツなど針葉樹の人工林を作ってきた。しかし1964年に木材の輸入自由化が進むと国産の木材需要が減っていき、結果的に伐採されない林が日本中にあふれることになってしまった。赤谷の森もまた、この時代に約3割が造林された。

「そこで、イヌワシをこの森で20年間観察したデータに基づいて、特に食物が必要になる育雛期に獲物を採りやすい場所を作ることになりました。実験的に人工林の内2ヘクタール程度を試験地として皆伐したんです」(松井さん)。

 言うまでもなく、イヌワシなど猛禽類は森の生態系の頂点であり、彼らが健全であることはその森の健全さの指標ともなる。これが、冒頭で書いた「木を切る自然保護」の真実だったのだ。

 皆伐した試験地はやがて草地となり、イヌワシの食物となるノウサギやヤマドリがやってくると考えられている。皆伐はすでに行われ、現在はNACS-Jはじめ地元団体などで試験地をモニタリングし、草の生育状況やノウサギ、ヤマドリの出現、イヌワシの行動をチェックしているという。

「まだイヌワシが狩りに成功した様子は見られていませんが、上空を飛びながら獲物を探しているらしい様子や、試験地を見下ろせる場所に止まってじっと見ている様子が観察できています」とのことで、今後が期待できる。

 ちなみに皆伐した材木はスギで、木材として市場に流通させた。つまり、本来の林業の形となっている。この赤谷でのプロジェクトの狙いのひとつは「自然を守る」ことと「第1次産業」を結びつけ両立させることだ。これが全国の同じような場所での先例モデルになればという思いもある。

 赤谷のイヌワシは、2010年以降ずっと繁殖に失敗しているという。原因は不明だが、ひとつには食物の不足があると考えられているため、今回の試みの効果が期待されるところだ。
「赤谷の森全体の再生と地域づくりはこれから何年も何十年も続きますが、近い将来、イヌワシのペアが繁殖に成功し、次の世代が育つことを期待しています」(松井さん)。

 これからも続く赤谷の森づくり。その一歩となるイヌワシの次の世代が誕生する日を心待ちにしたい。(文・島ライター 有川美紀子 写真・すべて(公財)日本自然保護協会提供)
http://dot.asahi.com/dot/2016070200003.html
http://dot.asahi.com/dot/2016070200003.html?page=2

http://archive.is/afQZU
http://archive.is/V5NIb

タグ:イヌワシ
posted by BNJ at 23:00 | Comment(0) | 野鳥ニュース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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