2016年08月19日

サイエンスBOX {探る} 「ペンギンの人工繁殖」 凍結精子 慎重に解凍【読売新聞2016年8月19日】(ミナミイワトビペンギン/海遊館/既報関連ソースまとめあり)

 国内有数の規模を持つ水族館「海遊館」(大阪市港区)が今年6月、絶滅の恐れがあるミナミイワトビペンギン(体長約50センチ)の人工繁殖に世界で初めて成功した。人工授精によるもので、繁殖技術の確立へ向けて、同館が大型のキングペンギン(体長約90センチ)で同様の取り組みを始めたと聞き、一部を体験した。(浜中伸之)

 記者は動物園や水族館に子供を連れて行くと必ずペンギンを見学する。だが、愛らしいミナミイワトビペンギンが国際自然保護連合(IUCN)から「絶滅危惧2類」(絶滅の危険が増大している種)に指定されているとは知らず、海遊館の希少動物保護への取り組みに参加したいという思いが募った。


 同館には、ミナミイワトビペンギンが20羽おり、動物の人工授精に詳しい神戸大准教授の楠比呂志さん(当時54歳)と共同で、2011年から人工繁殖の研究を進めている。人工授精では、オスから取り出した精子をメスの排卵前に生殖器官にいれる。一見簡単そうに思えたが、楠さんは「精子を抽出する技術や排卵時期などがわかっていないとうまくいかない」と教えてくれた。

 楠さんによると、ペンギンの人工授精の成功例は米国のマゼランペンギン、山口県下関市のフンボルトペンギンなどわずか。

 同館では、血液検査から、ミナミイワトビのメスの体に蓄える中性脂肪やカルシウムの値が上昇すると排卵が近くなることを突き止め、産卵日を推定。5年かけて人工授精に成功した。

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 7月11日、キングペンギンの人工授精に立ち会った。ミナミイワトビペンギンの場合は採取した精子をすぐに人工授精させたが、今回は凍結保存した精子を使う。キングペンギンでは初めての試みだ。同館飼育担当の林成幸さん(31)は「種類によって性状が異なるかもしれない。ゼロからのスタートだ」と気を引き締めた。

 記者は精子の解凍を行った。マイナス196度の液体窒素の中で5月末から約40日間凍結保存した精子を取り出し解凍する。

 保存容器からは空気中の水蒸気が冷やされてできた白煙が上がる。低温やけどを防ぐため分厚い手袋とエプロンを着用し、精子が入ったストロー状の容器を取り出した。楠さんから「5秒間空気に触れさせて」と助言を受けながら、慎重に氷水につけ解凍させた。

 もし精子が動かなければ研究がストップする。祈るような思いで電子顕微鏡の画面を見ると、無数の精子が元気よく動いていた。

 解凍した精子は体長約70マイクロ・メートル(1マイクロは100万分の1)、約1億4400万個。楠さんは「凍結前に比べると動きは鈍いが、約4割は元気で受精は十分可能だ」と指摘した。

 その後、排卵前と推定したメスの卵管までチューブを通して精子を注入。メスは暴れることなく、数分で終わった。成功すれば、約2か月後に孵化ふかする。楠さんは「今回の血液や超音波検査の結果を検証し、来年には産卵のメカニズムを解明したい」と話した。

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 野生のペンギンは、体重20キロ以上の大型のコウテイペンギンやオーストラリアなどにいる体重約1キロのコガタペンギンなど南半球を中心に18種類が生息する。

 このうちIUCNが絶滅危惧種に指定するペンギンはミナミイワトビを含め、半数以上の10種類にのぼる。IUCN日本委員会によると、近年、環境汚染や地球温暖化などが原因で、個体数や生息面積が減少傾向にあるという。

 本来の生息域ではない動物園や水族館での保全、繁殖の重要性は高まっている。水族館の数が世界で最も多い日本が、今後も人工繁殖技術の分野で、世界をリードしてほしい。

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 楠比呂志さんは、7日亡くなりました。記者は先月11日に取材し、その後も記事の確認などでお世話になりました。ご冥福をお祈りします。

 ◇183種精子・卵子保存

 凍結保存はペンギン以外の動物でも行われている。楠さんの研究室では、国の特別天然記念物アマミノクロウサギや国指定天然記念物のトゲネズミ、アフリカゾウなど183種類の希少動物の精子や卵子が凍結保存されている。

 動物園や環境省の現地事務所などから、病気や交通事故で死亡した直後の精巣や卵巣が送られてくる。理論上は2000年間保存が可能という。国内外では生息数を減らしているパンダやイルカなどで人工授精による繁殖研究が進む。

 楠さんは「絶滅間際になって動くのでは遅い。自然繁殖が前提だが、それが困難な場合を考えて準備をしておくべきだ」と話した。
http://www.yomiuri.co.jp/osaka/feature/CO022791/20160817-OYTAT50020.html

http://archive.is/ez254
おくやみ 【訃報】楠比呂志氏=神戸大准教授【読売新聞2016年8月10日】
海遊館 ペンギンとアシカの赤ちゃん次々誕生 /大阪【毎日新聞2016年7月5日】

大学倶楽部・神戸大 ミナミイワトビペンギン人工繁殖に初成功 大阪の水族館が楠准教授と共同研究【毎日新聞2016年6月24日】

ペンギンのひな3羽が世界初? 人工授精ベビーか 大阪【朝日新聞デジタル2016年6月15日】
ニュース交差点 ぴよぴよNEWS ミナミイワトビペンギン ひな3羽、6年ぶりにふ化 大阪 毎日小学生新聞【毎日新聞2016年6月8日】
ミナミイワトビペンギン ひな3羽6年ぶりふ化 海遊館【毎日新聞2016年6月6日】
海遊館 絶滅危機のペンギン、人工繁殖に挑戦 成功すれば世界初【毎日新聞2016年5月19日】

「来年こそ誕生」海遊館の挑戦 ペンギン人工繁殖【YOMIURI ONLINE2015年7月9日】
ミナミイワトビペンギン:人工授精、分かれば世界初 夢膨らむ海遊館 2組が有精卵抱く /大阪【毎日新聞2015年6月14日】

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