2016年08月30日

鵜と暮らし、一生をともにする鵜匠 山下純司【朝日新聞デジタル&M2016年8月30日】

「かーよ、かーよ」と声をかけながら全身をなでて、鵜を落ち着かせる


 鵜(う)と鵜匠が出会う瞬間は、ちょっとだけ生まれたての赤ちゃんを思わせる。「まずは人間というものはどういうもんや、ということを知ってもらわないかん。だから気持ちを落ち着かせて、今日からここが生きていく場所ですよと教えるために、湯をわかして、僕が手ぬぐいでずーっと体中を洗うわけ。そうすると気持ちがいいもんで、じーっとしとってくれるんだわ」


 首に縄をつけた鵜を泳がせて魚を取る岐阜・長良川の伝統漁法、鵜飼。その鵜を操る鵜匠を代々務める山下純司さんの自宅の庭には、山下さんの手で鵜飼の鵜へと生まれ変わった≠Q1羽が暮らしている。早朝6時半、鵜の寝床である鳥屋籠(とやかご)のふたを開けると、元気よく飛び出してくる鵜がいれば、いつまでもかごの中でじっとしている鵜もいる。そんな個性的な鵜の一羽一羽と対話するように、山下さんは頭からのど、背中、おなかと順に、じっくりとなでていく。

名前のない21羽を見分ける鵜匠の手
 その日の夜の鵜飼に連れていくメンバーを決めるのもこの時だ。川に魚がたくさんいそうな日は若くて活発に魚を取りそうな鵜を、水が濁って魚が取れそうもない日は、第一線を退いた鵜を。157日ある鵜飼のうち、最低でも20日くらいはどの鵜にも仕事をしてもらおうと決めている。「年齢が高い鳥もたまに体を使えば寝る時でも気持ちよく寝られるだろうし、鵜自身が楽しいでね」。健康管理とともに、そんな親心ものぞかせる。

 ちなみに、それぞれの鵜を見分けるための名前はない。いわく「風が吹き、雨が降る川の上の仕事だから、名前を付けて、紙とエンピツを持って仕事を進めていくことはできない」。その代わりにすべて、手を通して理解している。毎日の触れ合いで体調を確かめるのも、それぞれの首に縄を結わえる時の力加減を覚えるのも手。そしてなにより、山下さんは餌を与えることと鳥屋掃除、すなわちフンの始末を鵜匠自らの手でやることに意味があると話す。「いわゆる『お母さん』がすごいのは、襁褓(むつき=おむつ)を洗った手でお勝手をやるでしょう」。だから家族は家族になり、みな健康でいい仕事ができるのだ、と。

鵜を送り、鵜を迎えて仕事は続く
 こうした日々の世話は、放し飼いにしても一羽も逃げたことがないほどの信頼関係を築くが、同時に鵜匠には1日の休みも許されないことを意味する。旅行すら行けない自分こそ「かごの中の鳥」じゃないかと思うこともある。でも、鵜飼が始まる前の静かな時間に川の水を飲み、流れる雲を見上げ、風に吹かれていると、自然に従って生きることの尊さに改めて気づくことがある。鵜匠の家に生まれて77年、「僕は自分の一生に満足しとるよ」と言い切る。

 一方、鵜の一生は25年ほどとされている。最期は立つことすらできなくなるほど体を使い切った鵜を山下さんは布団に寝かせて、1日に数回、口に水をふくませてやる。すると3日から1週間ほどでこの世を去っていく。そうやって鵜を送り、新たな鵜を迎え入れることを繰り返しながら、まだまだ現役を続けていくつもりだ。そしていい頃合いになったら息子に譲って、100歳まで生きて、最期を鵜にしっかりとみとってもらう。それだけはもう、決めている。

    ◇

やました・じゅんじ 1939年生まれ。1300年以上の歴史を誇るぎふ長良川鵜飼を継承する6人の宮内庁式部職鵜匠の一人。大学卒業後に養魚場を経営し、父親が病気で倒れたのを機に27歳で鵜匠を継ぐ。自宅に併設された飲食店「鵜の庵 鵜」では、山下さんがいる時には鵜小屋の様子を間近に見られる。「ぎふ長良川鵜飼」は毎年5月11日〜10月15日に開催。詳細は岐阜観光コンベンション協会(http://www.gifucvb.or.jp/)へ。
http://www.asahi.com/and_M/interest/SDI2016081748871.html

http://archive.is/NzSKc

posted by BNJ at 21:06 | Comment(0) | 鳥獣狩猟ニュース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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