2016年10月04日

アマゾンの森「動物たちの宴」を密着取材したナショジオ写真家、地上30mの林冠でイチジクに群がる動物たちを撮る【ナショナルジオグラフィック日本版NEWS2016年10月4日】

このハチクイモドキ科の鳥は、イチジクを含めさまざまなものを食べる。イチジクを食べる鳥は2000種を超す。(PHOTOGRAPH BY CHRISTIAN ZIEGLER, NATIONAL GEOGRAPHIC)

「イチジクはとにかく特別。熱帯雨林にはいつでも、実をつけたイチジクがあるのです」と、ナショナル ジオグラフィックで活躍する写真家のクリスチャン・ツィーグラー氏は語る。熱帯生態学を学んだ彼は、パナマの熱帯雨林の端に暮らし、今、イチジクに夢中だ。

「たいていの木は実をつける季節が決まっているのに、イチジクは、いつでも森のどこかになっています」。熱帯雨林とはいえ乾期もあるので、食物の乏しい時期には、実をつけたイチジクの木の周りに生き物たちが群がってくる。鳥、サル、コウモリ、昆虫など数十種の生物が1本の木に集まり、騒々しいパーティーを繰り広げる様子は、アフリカのサバンナにある水場のようだ。(参考記事:「セレンゲティ」)


2匹のオオアリがイチジクの実にありつく。このイチジクはコウモリが第1次消費者だが、アマゾンではアリはどこからでもやって来る。(PHOTOGRAPH BY CHRISTIAN ZIEGLER, NATIONAL GEOGRAPHIC)

 こうした「イチジクの宴」の起源は、7500万年前にさかのぼる。イチジクが進化したのはおそらくユーラシア大陸のどこかで、受粉に小さなハチが関与してきたことは間違いない。以来、世界中に広がったイチジクは750〜1000種に枝分かれし、それに伴ってハチも多様化した。現在、イチジク1種につき、受粉を担うハチは1〜2種しかいない。

 イチジクの木と、イチジクコバチと総称されるハチは完全に相互依存関係にある。ペルーからガボン、インドネシア、オーストラリアに至るまで、無数のコバチとイチジクとは、ライフサイクルが不思議と重なっている。(参考記事:「授粉にまつわる植物と動物の驚異の生態」)

「イチジクの木は、神出鬼没のレストランのようなものです」と話すのは、イチジクの木にまつわる科学と文化史を紹介した書籍『Ladders to Heaven(天国へのはしご)』を出版したマイケル・シャナハン氏だ。「3〜4日の間、あらゆる生物がやってきて腹ごしらえをします。1〜2日後に再び訪れると、何事もなかったかのように静かになっているのです」

写真家、パーティー会場を目指して


 写真家ツィーグラー氏は、イチジクの木で開かれる宴が最高潮のときに、その様子を撮影したいと考えた。そして、突飛なアイデアを思いついた。9万ドルもする金属製の足場をペルー・アマゾンに持ち込み、モーター付きのカヌーで川を300キロ移動。そして世界屈指の多様性を誇る地、マヌー国立公園のコチャ・カシュ生物学研究拠点に行こうというのだ。(参考記事:「自然と人間 ペルー 先住民たちの豊かな森へ」)

 そこは面積10平方キロほどの森に、鳥類が500種以上、哺乳類が70種以上も生息し、その多くがイチジクを食べる。動物たちの多くは高い林冠にすむため、足場を組んで、その高さに到達しようと考えたのだ。

「1本の木に100匹ほどのサルが群がっているのを見たことがあります」と、米デューク大学の生態学者ジョン・ターボー氏。氏はコチャ・カシュで、ペルー・アマゾンの複雑な生態系を40年以上にわたり研究している。「月の出ている夜には、サルたちはお腹が空いていれば午前2時に目を覚まし、午前4時には木に集合しています」

 コチャ・カシュに到着すると、ツィーグラー氏は実のなったイチジクを探し始めた。木を見つけたら、時間との競争だ。動物たちの宴が終わらないうちに撮影を始めたい。

 ペルーの首都リマから派遣されたコチャ・カシュの職員、アントニオ・ゲッラ氏の指揮の下、マヌーの先住民であるマチゲンガ族の青年8人が作業し、あっという間に足場が組み上がった。作業チームはほぼ素足。森で生まれ育った彼らは、技術も度胸もあるクライマーなのだ。


林冠の世界を体感しようと、ツィーグラー氏は地上約30メートルの足場から撮影した。(PHOTOGRAPH BY CHRISTIAN ZIEGLER, NATIONAL GEOGRAPHIC)

 イチジクの実の数が減ってくると、ツィーグラー氏は次の木を探した。チームは足場を全て解体し、ジャングルの中を苦心して運びながら、思い描く写真が再び撮れそうな場所を目指した。

 足場が組まれれば、当然上まで登らねばならない。ツィーグラー氏は仕事熱心でいつも笑顔を絶やさないが、実は高所恐怖症。何とか1段1段上っていくものの、2回目に作った足場では、10段目でイチジクの太い枝にしばらくしがみつくはめになった。

 苦労しながらも最上段である12段目に立つと、ツィーグラー氏は自分が別世界にいるのに気付いた。木が跳ねている。お腹を空かせたホエザル、クモザル、フサオマキザルが目に入った。3種が同時にいるときもある。綿のような毛に覆われたシロガオオマキザルが、小さな実を指で器用にもいで、ポップコーンのように口に放り込む。


イチジクを頬張るアカホエザル。このサルは1日の半分以上を、木のてっぺんで眠るなど、だらだらして過ごす。(PHOTOGRAPH BY CHRISTIAN ZIEGLER, NATIONAL GEOGRAPHIC)

 アノールトカゲが、ライバルのオスに向かって喉の派手な袋を誇示している。決して低い位置に下りてこないチョウやトンボ、ハチも観察できる。さらに、鳥も数十種確認できた。つがいで訪れたゴシキドリ、ナナイロフウキンチョウ、コンゴウインコ。丸々としたシャクケイがさえずる様子は、上品な七面鳥のようだ。さらに彼は、17種もの虫に噛まれたり刺されたりしたと記録している。「ここにくれば、食物連鎖の一部に取り込まれてしまう」

イチジクとハチの密接な関係

 宴に集まる動物たちの多様性も魅力的だが、さらに興味深いのは、イチジクの木とその繁殖の方法だ。この木は体長わずか2ミリほどのイチジクコバチと共生している。コバチはイチジクの受粉を担うが、他の受粉者と違い、引き換えとして餌ではなく、安全な保育室を提供してもらう。(参考記事:「イチジクの砦を支える小さなハチたち」)


シロガオオマキザルたちは、クリスチャン・ツィーグラー氏と彼の大きなレンズに興味津々だった。この若い個体もそのうちの1匹。とはいえ、一番興味があるのは、できるだけたくさんのイチジクを口に詰め込むことだった。(PHOTOGRAPH BY CHRISTIAN ZIEGLER, NATIONAL GEOGRAPHIC)

 イチジクコバチは、イチジクの種になる胚珠という部分に花粉をつけ、産卵もそこでする。花を咲かせる他の植物同様、イチジクの胚珠も花の中にあるのだが、未熟な果実の中に花自体がしまい込まれている。細かな花を無数につけた花束を裏返しにして、狭い球体の中に詰め込んだようなイメージだ。

 コバチの卵は、オスが先にふ化する。オスたちはすぐさまメスがいる卵に穴を開け、ふ化する前のメスと交尾する。受精した状態でメスが生まれてくると、オスは妹でも妻でもあるメスのためにイチジクをかじって、外に通じるトンネルを作る。メスは受精した卵をいっぱいに宿して、その穴から外に出ていく。このとき、途中でイチジクの花からこすり取った花粉が体中に付いている。

 オスは実の中で死に、生を受けた小さな世界から出ることはない。したがって、熟した野生のイチジクを食べると、小さなオスのコバチを数匹も食べることになる可能性が非常に高い。しかし、スーパーに並ぶようなイチジクは受粉を必要としないため、その心配はない。(参考記事:「金属ドリルで果実に穴をあける寄生バチ」)


マヌー川の岸に落ちた小さなイチジクに、ミモザイエローと呼ばれるチョウの群れが集まっている。(PHOTOGRAPH BY CHRISTIAN ZIEGLER, NATIONAL GEOGRAPHIC)

 外の世界に出たメスのコバチは、実をつけた別のイチジクの木を探さなくてはならない。空中のわずかな化学信号を追って10キロ近く、時には160キロ以上飛ぶことさえある。良さそうなイチジクを見つけると、メスは実に開いた小さな開口部から中に入り込む。イチジクとイチジクコバチは共に進化してきたため、この穴はメスのコバチの頭がちょうど通れる大きさになっているのだ。実の中を進んだメスは、中にある胚珠の半分ほどに卵を産み、残りの半分に自分が運んできた花粉を付けていく。受粉した胚珠は、実が熟するとともに種子となる。

 その果実を鳥やサルが食べ、遠くの木に止まったり、枝の上で寝そべったりしているときに種が排泄される。イチジクにとって理想的な状況だ。種子は林冠の中、おそらくはわずかに土がある小枝の股の部分で芽吹き、地面に向かって根を伸ばす。根は成長しながら宿主の木にからみつき、やがて包み込み、絞め殺して乗っ取ってしまう。成長したイチジクの木は滑らかな幹を天に向かって伸ばしているが、若木のころに支えとなった木の死骸を内側に隠しているなど、誰も気付かないだろう。(参考記事:「動けない“寄生樹”ヤドリギがほかの木にとりつく驚きの戦略」)

 とはいえ、イチジクの木が生態系で特に大きな役割を果たす鍵は、コバチとの関係とタイミングにある。イチジクコバチの卵が成熟してふ化するには約1カ月かかる。しかしメスが生まれてから、産卵先のイチジクを探して死を迎えるまでには1〜2日しかない。つまり2日間で、産卵するにふさわしいイチジクを見つけねばならないのだ。太古からの共生関係を保っていくため、イチジクはコバチ同様、1年中いつでも実をつけざるをえない。実のなる他の木と違い、全ての木が同じ季節に実るわけでもない。個々の木が実をつける時期はばらばらで、それゆえ産卵に使えるイチジクが常に存在する。そして今日も森のどこかで、にぎやかなパーティーが開かれている。

倒木の上を歩いてくるオセロット。コチャ・カシュ生物学研究拠点は地球上で屈指の生物多様性を誇る。(PHOTOGRAPH BY CHRISTIAN ZIEGLER, NATIONAL GEOGRAPHIC)

地上に降るイチジクの雨

 高さ30メートルを超す林冠で、けたたましい騒ぎが始まった。林冠で暮らす多くのサルは、地面に降りることが全くない。一方、木の下でもさまざまな現象が起こっている。

 実のなったイチジクの木の下にいると、無数に落ちてくる実が大きな葉を叩き、雨音のように聞こえる。地面には実がびっしり落ちている。イチジクが地面に降っている間にも、先に落ちた実がもう腐り始め、白い菌類にうっすらと覆われている。小さな白いハエが実の上を飛び、待ちきれずに足踏みをするようにその場で飛び跳ねている。一帯は、ワインのかすや、かびのようなにおいがする。

 日の出や日没のころ、実のなったイチジクの木の下で静かに座っていると、鼻の尖ったパカという小型の哺乳類や、首回りが白くブタに似たペッカリーの群れが食事に来るのを見ることがある。日中には、ニワトリほどの大きさでお尻が白い鳥、ハジロラッパチョウが、列をなしてよちよちと歩いてくるかもしれない。さらには人間の猟師が、サルの肉を目当てに来ることもある。(参考記事:「ペッカリーのヌタ場へ集まる野生動物」)


イチジクの樹液を吸うツバメガの仲間。(PHOTOGRAPH BY CHRISTIAN ZIEGLER, NATIONAL GEOGRAPHIC)


イチジクの木は、果実を食べて種子を拡散してくれる鳥やサルに助けられている。イチジクの葉を食べるこのイモムシは、特に役立ってはいないようだが。(PHOTOGRAPH BY CHRISTIAN ZIEGLER, NATIONAL GEOGRAPHIC)
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 ある朝、私は、ホエザルの一家が川に近いイチジクの樹上で朝食を取っているのを観察した。食事が済むと彼らは別の木に移動し、母、父、2匹の子どもの順で列を作り、枝に腰掛けた。ヘリコニアの大きな葉の上に糞が落ち、ぴしゃりという音が何度も響いた。近づいて調べると、糞の中にイチジクの種子がはっきり見えた。

 5分もしないうちに、数匹のフンコロガシが上空から舞い降りて、糞に残ったイチジクの成分を探し始める。そして、糞の玉を作った。メスへの求愛のためだ。メスがこれに魅力を感じれば玉を受け取り、産卵場所とする。生まれたてのフンコロガシが取る最初の食事は、イチジクの種だろう。(参考記事:「フンコロガシはなぜ空を見ながら糞を転がすのか」)


大雨が降る直前の三日月湖。イチジクの研究が数十年前から行われている生物学拠点のコチャ・カシュは、この湖にちなんで命名された。(PHOTOGRAPH BY CHRISTIAN ZIEGLER, NATIONAL GEOGRAPHIC)
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 イチジクは、他のどんな果実よりも多くの野生生物の腹を満たす。ツィーグラー氏は、ガボンやインドネシアにある他の熱帯雨林でも、イチジクの周辺で開催される数日間の宴を追ってみたいと考えている。コチャ・カシュで彼は、宴が開かれる高さまでたどり着くスリルと、すでに宴が終わっていたときの落胆を体験した。マチゲンガ族の若者たちと2番目の木に足場を組んでからわずか2、3日後には、イチジクの実は1つもなくなっていた。「あれは雨の日の後でした」とツィーグラー氏は振り返る。「サルが50匹くらいいた木が、少し見ないうちにもぬけの殻になっていたのです」(参考記事:フォトギャラリー「関野吉晴 マチゲンガ族との交流」)

文=Emma Marris、写真=Christian Ziegler/訳=高野夏美

http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/100300373/
http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/100300373/?P=2
http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/100300373/?P=3

http://archive.is/SL2hA
http://archive.is/vd1TC
http://archive.is/LaF8n

posted by BNJ at 11:58 | Comment(0) | 海外の鳥ニュース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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