2016年10月09日

(科学の扉)生態系、よみがえるか 噴火の西之島、貴重な観察の場【朝日新聞デジタル2016年10月9日】(オオアジサシ/アカオネッタイチョウほか/既報関連ソースあり)

生態系、よみがえるか<グラフィック・宗田真悠>
 2013年から約2年間噴火が続いた小笠原諸島の西之島(東京都小笠原村)。火山活動は落ち着いたが、海鳥の楽園だった島は溶岩に覆われてしまった。ほぼ失われた生態系はどう再構築されるのか。絶海の孤島が生物学上の貴重な実験場になろうとしている。

 噴火前の西之島は無人島で、環境省によると、カツオドリやミズナギドリの仲間など海鳥の繁殖地となっていた。同省のレッドリストで絶滅危惧1Bに分類されるアカオネッタイチョウや、同2類のオオアジサシなどの鳥もいた。

 オヒシバやグンバイヒルガオなどの植物が見られたほか、昆虫類やカニなども確認された。だが、哺乳類や爬虫(はちゅう)類、両生類は見つからなかったという。

 火山活動が確認されたのは2013年11月20日。約40年ぶりだった。当初は、西之島から約500メートル離れた場所に火口が出来て溶岩が流れているのが見つかったが、約1カ月後には西之島とつながった。海上保安庁によると、溶岩で島は拡大を続け、面積は約2・7平方キロにまでなった。噴火前の約12倍だ。

 島の大部分が溶岩に覆われた結果、生態系はほとんど失われた。小笠原諸島の生態系に詳しい森林総合研究所の川上和人主任研究員によると、現在、1ヘクタールに満たないわずかな草地が残っているが、植物の種類は分かっていない。

 川上さんはこの秋に上陸して、残された植物の確認などの調査を行う予定だ。「今いる生物を記録しておくことは、これから島にどんな生物が進出してくるのか、分散していくのかを調べるためにも極めて重要だ」

 ■生物に距離の壁

 島の生態系は、どのように再構築されていくのだろう。

 有力なシナリオはいくつかある。海鳥が自力で飛来するパターンや植物の種子が流れ着くパターン、小動物が流木に乗って漂着するパターンなどだ。

 実際に、島の生態系が再構築された例が海外にある。1883年に噴火したインドネシアのクラカタウは、スマトラ島から約40キロに位置する。近くの陸地から海浜植物などが流れ着き、昆虫や鳥も上陸。オオトカゲなど大型の生物も確認されている。

 アイスランドの本土から約30キロ離れたスルツェイは1963〜67年に噴火。ユネスコによると、2004年までに60種類の維管束植物や、335種類の無脊椎(せきつい)動物などが確認された。

 こうした例をみると西之島でも期待が持てそうだが、これらの島とは決定的な違いがある。生態系を作る生物を供給する大陸や本土との距離だ。クラカタウやスルツェイは大陸や本土との距離が数十キロで、間には飛び石のように別の島もあった。

 それに対し、西之島は日本の本土から南に約900キロも離れている。クラカタウやスルツェイの数十倍の距離だ。最寄りの小笠原諸島からは西に約130キロの位置にあるからまだ可能性はありそうだが、気象条件が邪魔をする。西から東に吹く偏西風が、風で移動する種子などの逆風になる。西之島から西方の陸地からなら偏西風を追い風に出来るが、その候補の沖縄は約1300キロも離れている。条件は相当厳しい。

 川上さんは「5年や10年でどんどん植物が入って増える可能性は低い」とみる。溶岩には植物の養分になる有機物が含まれないため、海鳥の羽根に付着して植物の種が運ばれても育たない。海鳥がふんをして土壌がつくられてきたら可能性が出てくるが、新しい生態系の構築までには、とても長い期間がかかりそうだ。

 ■人の影響に懸念

 西之島の今後の長い歩みは、生態系が構築される過程が研究できる貴重な機会になる。

 小笠原の父島列島や母島列島などは出来てから百万年以上の歴史があるとされる。カタツムリや植物などの進化の過程が分かる貴重な生態系が残り、世界自然遺産にも登録された。

 父島から南へ約300キロには、無人島の南硫黄島がある。成立して3万年ほどと考えられており、比較的若い。約900メートルの高低差があり、標高によって植生が変わり、維管束植物は130種近い。オガサワラオオコウモリや海鳥などが生息。約70種の昆虫の中に、10種ほどの固有種が見つかるなど、新たな進化が起こっている。

 首都大学東京小笠原研究委員長の可知直毅教授は「ほかの島々の研究と、西之島の今後の研究で得られる知見から、小笠原で見られる固有の自然のなぞに迫れる可能性がある」と指摘する。

 ただ、そうした貴重な現場は、人の影響を極力排除する必要がある。調査などの際に人が外来種を持ち込めば、西之島にわずかに残った植物や、かろうじてたどり着く海浜植物による生態系構築に大きな影響が出かねない。可知さんは「貴重な自然を後世に伝えていくためにも、外来種対策はきわめて重要だ」と強調する。

 環境省や林野庁、小笠原村などは6月、上陸ルールを策定。環境省は、法律に基づく立ち入り制限をする必要があるか、来年度にも調査する予定だ。(小坪遊)

 <島の生態系> 一般的に島の生態系は、大陸から遠ざかるにつれて、分類群は少なくなるが、一部のグループが豊かな多様性を見せることがある。

 小笠原にも、元々は両生類や完全な淡水性の魚はいなかったが、多種多様なカタツムリが進化した。ガラパゴス諸島のダーウィンフィンチや、ハワイ諸島のハワイミツスイなどの鳥類も有名だ。

 一方で、島の生態系は非常に繊細な面もある。小笠原、ガラパゴス、ハワイのいずれでも、人が持ち込んだ外来種によって貴重な種が絶滅の危機にある。

 ◇「科学の扉」は毎週日曜日に掲載します。次回は「食品ロス、技術で防ぐ」の予定です。ご意見はkagaku@asahi.comメールするへ。
http://www.asahi.com/articles/DA3S12599759.html

http://archive.is/VQMPx
新たな生態系、西之島で調査 環境省、来年度上陸へ【朝日新聞デジタル2016年8月30日】
小笠原諸島・西之島、「研究目的以外の上陸自粛を」 専門家【日本経済新聞2016年8月19日】
噴火から2年半、西之島で海鳥営巣…抱卵の姿も【読売新聞2016年6月4日】
西之島、海鳥の生息を確認 噴火みられず、わずかに噴煙【朝日新聞デジタル2016年2月15日】
溶岩の島、海鳥たくましく生息…西之島噴火2年【YOMIURI ONLINE2015年11月18日】
溶岩で覆われた西之島、花咲き鳥歌う島になるか【AFPBB News2015年5月20日】
くらしナビ・環境:西之島噴火、海鳥どうなる 国内有数の繁殖地 溶岩で覆われ【毎日新聞2015年3月20日】

posted by BNJ at 13:01 | Comment(0) | 野鳥ニュース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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