2016年11月10日

ルポ・沖縄で何が起きているのか/2 やんばるの森の視えない戦争=鎌田慧【毎日新聞2016年11月10日】(ノグチゲラ/ヤンバルクイナ)

ノグチゲラ、ヤンバルクイナ…ヘリパッドは環境と生命の宝庫を破壊する
「高江」ヘリパッド建設強行「常軌を逸した弾圧」
 沖縄本島北部の高江で、米軍ヘリパッドの強行建設に抗う住民運動の現場から、反骨のルポライターが事態の本質を伝える短気集中連載。第2回は高江で行われている常軌を逸した弾圧と、絶滅危惧種を含む沖縄の貴重な環境をヘリパッドがいかに「虐殺」するかを伝える。

 米軍に接収されて、「米軍北部訓練場」と呼ばれている、沖縄本島北部の「やんばるの森」は、航空写真でみると、深い緑に蔽(おお)われた樹海のひろがりである。

 柔らかく膨れ上がった静かな森を、チェーンソーの甲高い金属音が断ち伐(き)り、突如としてトンボ眼鏡状に、無残にも赤土を抉(えぐ)りだした。垂直離着陸機オスプレイ用、円形2個が結びついた長さ150メートルの着陸帯、「オスプレイパッド」の建設現場である。

 森を穿(うが)ってほかの3地区とあわせて、6カ所の建設工事が高江地区を包囲する。これによって、2万4300本もの樹木が伐り倒され、総面積4ヘクタールに及ぶ着陸帯がこじ開けられようとしている。「森の虐殺」といっていい。

 この無残な状況から目を逸(そ)らさせるように、政府は線引き外の地域を、9月15日、国立公園に指定した。さらに、2018年には世界自然遺産登録を目指す、という。この森に棲(す)むヤンバルクイナやノグチゲラは「絶滅危惧種」である、とわたしは書いたりしてきた。しかし、その危機的状況についての認識は現実に及ばなかった。

 ノグチゲラは国の「特別天然記念物」。沖縄本島にだけ生存する一属一種のキツツキ、沖縄の県鳥である。オスプレイと輸送船、最新鋭の海兵隊基地にされようとしているのが、隣接する名護市辺野古の海。そこにやってくるジュゴンはここが北限の珍客で、これまた絶滅危惧種だ。

 政府は辺野古米軍新基地建設に抵抗する県知事を裁判にかけてまで強行し、米軍に無償貸与しようとしている。しかし、ノグチゲラとジュゴンは、何千年にもわたって維持されてきた、沖縄の自然環境のなかで、未来への希望を托(たく)す生き物の象徴なのだ。

 ちなみに言えばオスプレイはタカ目「ミサゴ」の英名。米国ボーイング社製の猛禽(もうきん)タカが美しい県鳥ノグチゲラを狙う構図は、あまりにもドラマチックだ。

 辺野古の海と高江の森。「ブロッコリーの森の豊かさ」のなかで育まれてきた、微生物をもふくむさまざまな種が、たかだか米軍の基地建設によって、いま一挙に抹殺されようとしている。

生きている間は這ってでも…
 島袋文子さん(87)はたいがい、高江のヘリパッド建設工事に抗議する座り込みの列にいる。お住まいは40キロほど離れた、辺野古の海のすぐそばだから、誰かが車イスを押して連れてきているのだ。

 しかし、よほど気丈でないと、強制排除が常態の座り込みにはこられない。87歳なのだが、機動隊員は手加減なく、左手の指に3週間の傷を負った。

 10月21日、午後2時、島袋さんは名護署に出頭した。「暴力行為」の容疑での呼び出しに応じて、取り調べを受けるためだった。

 島袋さんの出頭を聞きつけた、150人ほどが警察の前に集まった。横田雄一弁護士が車イスに付き添って署内に入る前、立錐(りっすい)の余地もなく警察の柵に張りついている支援者に、彼女は笑顔で手を振っていた。

「文子さん、がんばれ!」「我々がついているぞ!」。口々に叫んでいるのを聞いて、わたしは不覚にもほろりとさせられた。

 その翌日、高江の資材搬入口前の座り込みの場で再会したので、話を聞いた。

島袋さん 7月24日に、2人の客がおうちに来たんです。どこの人?と聞いたら名護署って穏やかに笑って、入らせてくださいというので、どうぞって。「実は、文子さんが人のホッペを叩(たた)いたって告訴されている。人を殴ったら暴力だ」と。わたしは暴力を振るった覚えはないと言ったけど、いや、これは暴力に値する、と。

 いつ名護署に来ますかと言うから、わたしは長野県に講演に行かなきゃならないし、台湾に行く用事もあって、わたしが警察に用事があるわけじゃないから、行かないよと言ったんです。いや、告訴されてビデオに映ってるからって。どこへ行っても、名護署はずっと警戒しているんです。

 5月4日、島袋さんが辺野古のキャンプ・シュワブ前のテントに座っていたとき、「日本のこころを大切にする党」の和田政宗参院議員が、「テントを撤去せよ」とボリューム一杯にあげたスピーカーでがなった。そのときの混乱状態のなかで、「日本のこころを大切にする党」の若者が島袋さんを告訴したのだ。

――なぜ殴られたとか言いがかりをつけるんですか?

島袋さん それは分からないですよ。男の子(32歳)が現れて、わたしに「ぼくは辺野古の人だけど島袋の文おばあに会いたい」って。「わたしが島袋だよ、あんたは辺野古の人だと言うけど、辺野古のどこかね? わたしは辺野古の年寄りから子どもまで知らない人がいないけど、あんたは嘘(うそ)をつくのか」と手をだしたけど、どこにも届いていない。

   ×  ×  ×

 島袋さんは、刑事たちの尋問にたいして、主張した。10月17日、器物破損容疑で逮捕され、同20日、公務執行妨害、傷害の容疑で再逮捕された、山城博治(ひろじ)沖縄平和運動センター議長を釈放するなら尋問に応じると言い張って、名前も本籍地も住所も言わなかったのだ。

 と、そのとき、突然、右翼の宣伝カーが通りにやって来て、空襲警報のような大きな音を出した。それで急に動悸(どうき)が激しくなって、気分が悪くなった。

 戦争で家族を亡くした彼女には、前からPTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状があった。吐きそうだから外へだして、といって、調書へのサインも断った。

島袋さん 私は学校に行ってないし、勉強もしてないから、学問的なことは何も知らない。だけど、世の中の善し悪(あ)しは、ちょっとは分かっているつもりです。でも、警察というのはまだ行ってみなかったから、この間は口紅つけて眉墨引いて、わざわざ赤いシャツ着て行ったんです(笑)。

――辺野古から高江まで来て、座り続けている理由はなんですか。

島袋さん 戦争で火炎放射器で背中を焼かれて、左半身がやけどしているし、手榴弾(しゅりゅうだん)の破片がおしりに入っていて、ここまで生きるのにいろんな道を歩んできました。いまは足が利かないから、ただ座っているだけですけど、おうちにジッとしているということはできないのです。ま、生きている間は、這(は)ってでも来ないとだめでしょうね。

 戦争中、夜中に暗がりで飲んだ水の水たまりを、朝になって見たら、血が混じっていました。そんな経験をしてわたしは生き延びてきたのです。

   ×  ×  ×

 島袋さんは実際は米寿だという。父親が北の名護から南の糸満へ出稼ぎにいっていたので、役場へ行けず入籍が遅れたのだそうだ。

米軍は日本の国内法を守れ!
「高江のオスプレイパッド建設予定地には、4地区合計で、動物種97種、植物種で110種の希少種が確認されています。動植物の総数は2000種を超えます。この高江周辺の希少種保護のためのアセスを、米国務省やJEGS(ジェグズ)に規定された国防省環境司令官である在日米軍司令官に渡しましたか、防衛大臣に伺います。それはいつでしたか」

 10月20日、参院外交防衛委員会で、沖縄出身の伊波洋一議員は、稲田朋美防衛大臣に尋ねた。大臣に代わって、深山延暁防衛省地方協力局長が「説明した」と答えた。JEGSは、米国防総省が定めた「日本環境管理基準」のことである。

 その13章には、自然資源及び絶滅危惧種の保護、拡充、管理を保証する計画の基準を定める、とあり、付表にはヤンバルクイナとノグチゲラの名前が、トキやライチョウとともに並んでいる。しかし、絶滅危惧種42鳥のうち、天然記念物は10種しかない。

 在日米軍が、「日本環境管理基準」によって、絶滅危惧種と保護種の存在の調査と管理を徹底する、というのは、あたかもジャングル訓練の仮想敵、タリバーンやIS(イスラム国)のような、遺跡や環境を破壊する野蛮の輩(やから)とはちがう、文明国の軍隊だ、と主張したいがためであろう。

 国防総省は、2015年会計年度で、軍事施設における自然資源保護プログラムとして、3億ドルの予算を計上している。たとえば、ハワイの陸軍基地では、キツツキの保護のために射撃場が閉鎖され、訓練場も移設されている。それなら、高江の森でのオスプレイパッドの使用は、テロリストの文化財破壊に相当する。

 防衛省は、オスプレイの配置を最近まで、認めていなかった。だからアセスメントはやってなかった。日米地位協定があるにしても、米軍は日本の国内法を守らなければならない。

「高江のヘリパッド建設の場で、なにが起きているのか。それが日本の民主主義のリトマス試験紙です」と伊波議員はいう。

 オスプレイパッドの建設予定地4地区のうち、海に近い2地区に、29カ所のノグチゲラ営巣木が確認されている。文化財保護法が適用されている珍鳥である。

 その個体数は、320から390(平成9年調査)だが、オスプレイが飛びまわるようになって、学校の窓ガラスなどに衝突して、5羽の死骸が発見され、文化庁も確認している。東村(ひがしそん)のノグチゲラ保護監視員の経験でも、ノグチゲラがこのように連続して死ぬことはなかったという。

絶滅危惧種が米兵に食べ尽くされる
「このまま米軍に運用させると、米軍に罪を着せることになる。JEGSに基づいて、米軍と再協議すべきだ」と伊波議員は追及した。

 防衛省の深山地方協力局長は、「環境の影響にも配慮した上で工事を行っている。いまの工事を整々と行い、4000ヘクタールの返還に繋(つな)げたい」と答弁した。4000ヘクタールが返還されるのだぞ、ぐずぐず言うな、とは奴隷の言葉である。4000ヘクタールを返す、とは、20年前、96年のSACO(沖縄に関する特別行動委員会)合意で約束されていたことにすぎない。

 やんばるの森は、ノグチゲラに表現される鳥類だけの宝庫ではない。哺乳類4種、爬虫(はちゅう)類5種、両生類4種、昆虫類27種、このうち、16種が、天然記念物である。

 湿潤亜熱帯の照葉樹林が、独特の生物多様性と固有性の高さをつくりだした。琉球列島の島々は、陸橋によって大陸と繋がったり、海浸(かいしん)によって分離したりした。そのたびにアジア大陸からさまざまな生物が侵入、孤立して独自の生物相が形成された、と環境NGOやんばるの自然を歩む会の玉城長正さんは主張している。

 米海兵隊員のサバイバル訓練は、食物を与えないでジャングル内で生活させられる。高く飛べないヤンバルクイナやケナガネズミやトゲネズミなどの絶滅危惧種も食べ尽くされるかもしれない。黄色の珍種ナンゴクヤツシロランはどうなるのか。

 オスプレイは事故続きで、嫌われものだ。その弊害は騒音ばかりか、垂直離着陸時に、下向きの熱風が加わり、重苦しい低周波震動で周囲を圧倒する。

 米軍の資料から、いち早くオスプレイの配属を発見していた、建築家の真喜志好一さんは、湿潤の森が、離着陸時に熱風を出す飛行によって、環境の乾燥化が進み、生態系が変わることを心配している。オスプレイパッド建設のための森の乱伐ばかりが、森を破壊するわけではない。

 やんばるの森の深いところで、もう視(み)えない戦争がはじまっている。

かまた・さとし
 1938年青森県生まれ。91年『六ヶ所村の記録』で毎日出版文化賞受賞。『沖縄(ウチナー) 抵抗と希望の島』など著書多数

(サンデー毎日2016年11月20日号から)
http://mainichi.jp/sunday/articles/20161109/org/00m/040/016000d

http://archive.is/unKTt
沖縄は問う、環境・平和・自治・人権 日本環境会議が明らかにしたこと 桜井国俊【WEBRONZA朝日新聞社2016年11月9日】
社説[泡瀬訴訟 住民敗訴]干潟保全、懸念拭えず【沖縄タイムスプラス2016年11月9日】

posted by BNJ at 11:58 | Comment(0) | 野鳥ニュース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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