2017年01月31日

中国の責任か? 鳥インフル蔓延で新型インフル“パンデミック”の現実味【dot.ドット朝日新聞出版2017年1月31日】

鳥インフルエンザに感染した鶏が見つかり、殺処分作業が進む養鶏場=2016年12月、宮崎県川南町 

 鳥インフルエンザが猛威を振るっている。ヒトからヒトへ感染する新型インフルエンザ出現の危機が迫る。専門家が懸念する蔓延の元凶は、こんなところにあった。

 1月23日、ジュネーブで開かれた世界保健機関(WHO)の執行理事会で、マーガレット・チャン事務局長は、新型インフルエンザの危機を訴えた。

「世界はパンデミックの兆候を見逃してはならない」

 昨年末から今年にかけて、アジアや欧州など40カ国近い国で鳥インフルエンザウイルスの感染が発生していることを受けての、異例の声明だ。

 鳥インフルエンザの問題は、人類の新型インフルエンザに対する脅威につながることを知っている人は多いだろう。

 本来、鳥から鳥にしか感染しない鳥インフルエンザウイルスは、型の異なるウイルスと交雑するとウイルスの一部が入れ替わる「遺伝子再集合」を起こすことが知られている。ヒトからヒトへ感染する変異を遂げると、新しいウイルスに対する免疫を持っていないヒトは、重症に陥る危険性が高いのだ。

 全世界で死者が2千万人とも4千万人ともいわれる1918年のスペインかぜを始め、57年のアジアかぜも、68年の香港かぜも、そして2009年のH1N1の世界的流行(パンデミック)も、こうして生まれた。

 WHOが危機感を募らせるのは、複数の型の鳥インフルエンザウイルスが、現在世界中に蔓延しているからだ。

 日本のH5N6型ウイルスに加えて、欧州ではH5N8型が流行を拡大させている。中国では、これに加えてH7N9型もはびこっており、この複数のウイルス蔓延が、新たなパンデミックを生む要因になると専門家の間で指摘されている。

●中国で高病原性が蔓延

 確かに今季の流行は、いくつもの点で従来とは異なっている。例えば、発生の時期だ。

 致死率の高い高病原性鳥インフルエンザウイルスに限って言えば、日本で79年ぶりにウイルス感染が見つかったのは、年が明けた04年1月中旬、山口県の養鶏場でだった。06〜07年のシーズンも、10〜11年も、ほとんどが渡り鳥の飛来からしばらくたった年明けに感染が広がった。

 ところが、今回の鳥インフルエンザの出現は、16年11月下旬から12月にかけて立て続けに七つの養鶏場に及んだ。

 京都産業大学鳥インフルエンザ研究センター長の大槻公一教授は、出現時期の変化をこう読み解く。

「ウイルスが蔓延している中国からシベリアへ帰る渡り鳥によって、高病原性ウイルスがシベリアの営巣地を汚染している可能性が高い。だから翌年、シベリアから日本に渡り鳥が飛来して、すぐに野鳥に感染してウイルスが広がったのではないか」

 元々、鳥インフルエンザはシベリアに常在するウイルスで、渡り鳥であるカモの腸管に宿っている。カモは無症状で南方に飛来し、そこで鳥の間で感染を繰り返すうちに病原性を身に着けたウイルスに変異する。中国南部で生きたままの家禽を売り買いするライブ・バード・マーケット(生鳥市場)が、ウイルスの変異の温床と目されている。その中国で蔓延した高病原性のウイルスが、シベリアをも汚染しているというのだ。

 大槻教授の推理を裏付けるように、国立研究開発法人「農業・食品産業技術総合研究機構」が、青森県と新潟県の養鶏場のウイルスを分析したところ、15年に中国で流行したH5N6型のウイルスを先祖に持つものであることが明らかになっている。中国に定着したウイルスの子孫が、渡り鳥を経由して日本に出現したことになる。

●韓国は殺処分3千万羽

 日本では、今年1月24日までに九つの養鶏場で感染した鶏やアヒルが見つかり、約130万羽が殺処分された。野鳥などへの感染も深刻で、1月25日現在で18道府県186件(フンや水検体も含む)に達する。

 韓国は、さらに深刻だ。16年11月以来、3千万羽を超える家禽が殺処分されている。これは韓国内の家禽の5分の1に相当し、卵や鶏肉の不足が社会問題に発展している。韓国で猛威を振るうウイルスもまた、日本と同じ中国が先祖だ。

 とはいえ、自然界の出来事なので、中国の責任を追及するわけにもいかないのではないか? ところが、鳥インフルエンザウイルスの研究に長年従事している北海道大学の人獣共通感染症リサーチセンター統括の喜田宏特任教授に疑問をぶつけてみると、意外な答えが返ってきた。

「いや、中国の責任じゃないとは言っていられない」

 喜田教授が指摘するのは、中国が家禽を対象として奨励している鳥インフルエンザのワクチンだ。
ワクチンが変異を促進

 日本では、鳥インフルエンザウイルスの感染が明らかになった養鶏場では、その養鶏場の鶏すべてを殺処分することが家畜伝染病予防法によって定められている。財政的な補填は国からなされるものの、養鶏場の経営者には風評被害や殺処分という大きな負担がのしかかる。ワクチンで防疫したほうが合理的だとの要望が日本の養鶏関係者から噴出したこともある。
 だが、それを頑なに拒否し、殺処分による摘発・淘汰を貫いたのが、当時、農林水産省の家きん疾病小委員会の委員長だった喜田教授だ。

「ワクチンを接種した場合、家禽はウイルスに感染しても発症することはないが、少量ながらウイルスを排泄する。知らないうちにウイルスを蔓延させてしまう」

 それだけではない。ワクチンによって抗体を持った鶏のなかで、ウイルスの変異が促されてしまうというのだ。

 農水省のホームページには、中国政府が各自治体に向けて発したワクチン施策についての文書が掲載されている。ワクチン接種を推奨し、その費用は国や地方行政が補助することが明記されている。

 喜田教授は、家きん疾病小委員会の委員長だった07年ごろ、国際獣疫事務局(OIE)に対して、中国、ベトナム、エジプトなどのワクチン使用を抑えるよう意見具申した。その結果OIEは、まずは殺処分などの摘発・淘汰の原則を優先するよう指導したが、中国だけはワクチン優先策を変えていないようだ。

 鳥インフルエンザの蔓延が新型インフルエンザのパンデミックの危機を招き、その一因が中国のワクチン政策にあるとしたら、中国の責任は重大だ。

 1月22日、ショッキングなニュースが舞い込んできた。香港衛生防護センター(CHP)が、旅行シーズンの春節を前に警告を発する文書を流したのだ。

 これによると、中国本土では今季、16年末までにH7N9型の鳥インフルエンザウイルスに感染した人が112人に達しただけでなく、今年1月には111人が新たに加わるなど急増しているという。かつてない異常事態に中国本土を訪れた旅行者へ生鳥市場などには近づかぬよう注意を促している。

●イヌやネコへの感染も

 中国では13年以来、H7N9型の感染者が累積で1千人近い。死亡率は4割前後と言われているが、今季の感染者は、かつてない勢いで増えている。

 世界中の鳥インフルエンザ情報を集めて掲載しているサイト「パンデミックアラート」によると、日本で流行していH5N6型鳥インフルエンザウイルスも、中国では14年以来、17人の感染者がいて、うち9人が死亡している。

 ただ、喜田教授によると、本来ヒトには鳥インフルエンザウイルスを受け入れる受容体がないので、感染した人は、のどなど上部気道に鳥型の受容体を持つ特異体質の人に限られる、と分析する。確かに感染例をみると、感染した家禽をさばいたり調理したりする濃厚接触者が大多数を占めていて、ヒトからヒトへの感染例は親きょうだいや子どもなど同じ遺伝子を持つ近親者がほとんどだ。

 だが、安心はできない。ウイルス遺伝子の特定部分が少し変異するだけでヒトへの感染を獲得する可能性も指摘されている。

 日本でも野鳥の被害が深刻だが、海外ではイヌやネコへの感染も確認されている。死んだ鳥やフンには近づかないことだ。飼っているネコやイヌが死んだ鳥に触れないよう気をつける必要がありそうだ。(ジャーナリスト・辰濃哲郎)

※AERA 2017年2月6日号
https://dot.asahi.com/aera/2017013000172.html
https://dot.asahi.com/aera/2017013000172.html?page=2
https://dot.asahi.com/aera/2017013000172.html?page=3

http://archive.is/ilXqT
http://archive.is/wdhEg
http://archive.is/J4BRD

「パンデミックに万全の備えを」自衛隊福岡病院で新型インフル対応訓練【産経ニュース2017年1月29日】(鳥インフルエンザ)
保健所や市民病院で新型インフル訓練【読売新聞2017年1月18日】

鳥インフルエンザ約40か国で新たに報告 WHOが警戒呼びかけ【NHKニュース2017年1月24日】

マカオ南粤卸売市場でH7亜型鳥インフル見つかる=食用家禽類売買を3日間停止、1万8千羽殺処分【マカオ新聞2017年1月27日】(既報関連ソースあり)
【中国春節】連休控え、中国で鳥インフル警戒 昨年12月に20人死亡、上海周辺で多発【産経ニュース2017年1月27日】
《安全》鳥インフル、広東省で2人死亡【NNA ASIA2017年1月19日】(H7N9型)
中国、ローストダック販売の男性 鳥インフルで死亡【AFPBB News2017年1月15日】
マカオでヒトへの鳥インフル感染確認=患者は広東省でニワトリ飼育の72歳女性【マカオ新聞2017年1月13日】(他1ソース)
香港で今冬4例目ヒトへのH7N9鳥インフル感染確認=患者は10歳男児、広東省で生きた家禽と接触歴【マカオ新聞2017年1月12日】

鳥インフルで20人死亡、中国 昨年12月に【共同通信2017年1月11日】(H7N9型/既報関連ソースあり)

鳥インフルエンザ、鳥から人への感染まれだけど【朝日新聞デジタル2017年1月11日】

《安全》今冬3人目の鳥インフル感染者【NNA ASIA2017年1月9日】(H7N9型/既報関連ソースあり)
【ビジネス解読】史上最悪を2倍超も更新 鳥インフル大国・韓国 「日韓でなぜ違うのか」報道やネットで自国の防疫体制に疑問【産経ニュース2017年1月6日】

香港、鳥インフルで今冬初の死者 広東省に渡航歴【AFPBB News2016年12月28日】(H7N9型)
韓国、鳥インフル対策に軍動員 殺処分を加速化へ【ロイター2016年12月26日】
《安全》鳥インフルで2人死亡、今月9人感染【NNA ASIA2016年12月26日】(H7N9型/上海/安徽省/香港/マカオ他)

インド東部で鳥インフルエンザ、2500羽以上を殺処分に【朝日新聞デジタル2016年12月27日】(H5N1型)

posted by BNJ at 21:38 | Comment(0) | 海外の鳥ニュース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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