福島第一原発に向かうバス内で防護服を着た牧慎一郎園長=平成23年11月ごろ(牧慎一郎園長提供)
数々の改革で来園者数のV字回復を遂げた天王寺動物園(大阪市天王寺区)だが、その立役者でもある牧慎一郎さん(45)の経歴は実にユニークだ。元文部科学省の官僚で、「テレビチャンピオン」の動物園クイズ王にも輝いたことも。異色の園長のルーツとは。(聞き手 吉国在)
妻と一緒に動物園・水族館巡り、きっかけは1冊の本
−−動物園に興味を持ったきっかけは
牧 実は、子供のころから「動物園マニア」だったわけではないんです。興味を持ったのは大人になってからでした。結婚してまもない頃、本屋でたまたま、青柳昌宏さんが書いた「ペンギンたちの不思議な生活」という本を見つけて、読んでみると、ペンギンって「すごく魅力的な生き物だ」と思ったんです。それから妻と一緒にペンギンを中心に動物園や水族館を回ったのがスタートでした。
−−どこが面白かった
牧 ペンギンはあんなにかわいらしいのに、実は野性味あふれる動物だったんです。しかも、全国各地の動物園で見せ方が違う。
−−例えば?
牧 天王寺動物園の場合、氷をイメージした白い床の飼育舎でフンボルトペンギンを飼っていますが、実際は寒い場所には生息していません。日本人のペンギンに対するイメージで白い床にしているんでしょうね。
−−他の園だと違うんですか
牧 そうなんです。フンボルトペンギンの野生を再現したような展示をしている動物園もあるんです。園の考え方に応じて随分と展示方法が違うことを実感しました。違いを意識してみると、それぞれの園の方針を比較する軸ができたんです。動物園や水族館って多様だなあと。動物園にのめり込むようになって、休日などを利用して関東の動物園や水族館を中心に約100カ所以上を巡りました。
福島原発事故の応援も
−−科学技術庁(現文科省)で働くかたわらで動物園巡りをしていた
牧 動物園巡りはあくまで趣味です。仕事とはまったく関係なかった。ただ、個人的に本を集めては動物園のことを調べていた。動物園とはどうあるべきか、運営をどうすべきかと勝手に考えを巡らせていたんです。
−−それらがいまの仕事につながっている
牧 そうですね。動物園の面白い取り組みを調べて、博物館関係の雑誌に動物園の運営上の面白い取り組みを紹介するコーナーを持たせてもらったり、学芸員課程の教科書の動物園部分を担当したこともありました。今の仕事と重なる部分が多いんですが…。
−−ところで、官僚時代はどんな仕事を
牧 原子力の仕事に長く携わり、原子力安全・保安院に在籍したこともあります。福島原発事故が発生した時もかり出されて地震の3日後に福島県庁の支援に駆けつけたこともあります。科学技術人材をテーマに政府発行の科学技術白書を書いたり、人工衛星を開発するための予算や組織マネジメント、開発計画策定にかかわったりしました。
NPO代表務める
−−動物園のNPO法人の代表も務めたとか
牧 動物園巡りが高じて、NPO法人「市民ZOOネットワーク」の会議に飛び込みで参加したらメンバーと意気投合して…。ちょうどNPO法人格の取得を模索していた時期で、そのお手伝いをしていたところ、当時の代表から代表就任を打診された。私は基本的に肩書が大好き。「代表? やったー、やるやる」って感じで、平成15年から4年間務めました。
−−活動内容は
牧 北海道の「旭山動物園」が第1回の飼育施設部門大賞を受賞した「エンリッチメント大賞」という表彰を動物園に授与する活動はご存じですか。動物園をポジティブに応援するNPOでした。
−−天王寺動物園も大賞を受賞した
牧 地中海沿岸に生息する野生のヒツジ「ムフロン」の飼育舎に、角で突くとエサが落ちるペットボトル「じゃらじゃらボトル」をぶら下げた。動物本来の習性をひきだそうとする展示です。それで昨年度に大賞をいただいた。
−−「見せ方」への評価ですね
牧 動物園の飼育環境って、シンプルで退屈なんです。動物の異常行動を引き起こすこともあります。NPOではちょっとした工夫で、動物たちに変化に富んだ環境を提供している園を表彰していました。
「テレビチャンピオン」の動物園王
−−テレビのクイズ番組にも出演されています
牧 テレビ東京の番組「テレビチャンピオン」で、動物園王選手権という企画に参加して優勝しました。5人の争いを制したのですが、映像から動物園を当てる早押しクイズなど結構ギリギリの戦いで、われながら勝負強いなと。
−−大阪市の動物園改革担当部長になった経緯は
牧 内閣官房の人工衛星を作る部署にいた平成25年12月ごろ、担当部長の公募があったのをSNSの動物園マニア仲間のコメントで知りました。仲間からは「天王寺動物園はどうなるのか」と危惧する声があがっていました。市の募集要綱をみて、直感的に「僕の仕事だ」と思ったんです。
−−勇気がいったのでは
牧 大阪出身でしたし、地元の動物園の再生に携わる仕事はすごくやりがいがあると。将来計画を作ったり、動物園の企画やイベントを改善したりする業務内容が記載されていて、私がやりたいことそのものでした。こんなチャンスは二度とないと直感しました。「幸運の女神は前髪しかない」とはこういうことで、今つかまなくてどうすんねんと思ったわけです。
幸運の女神は前髪しかない
−−ためらいはなかった
牧 子供たちがまだ幼く、もちろんためらいはありました。平成29年3月までの任期付きの仕事で、ずっといられるわけではない。数年たって路頭に迷うかもしれませんし、最終的にどんな結論になるかはわかりません。でも、やりたいことができるチャンスって、生きていてもあまりないと思うんです。(聞き手 吉国在)
◇
【プロフィル】まき・しんいちろう 昭和46年、大阪府吹田市生まれ。平成7年3月、大阪大学大学院基礎工学研究科修了。同年4月、科学技術庁(現文部科学省)に入庁。26年6月に文科省を退職し、同年7月、公募された大阪市建設局動物園改革担当部長に就任。次々と改革案を打ち出し、27年度には来園者数のV字回復を成し遂げた。
http://www.sankei.com/west/news/170212/wst1702120026-n1.html
http://www.sankei.com/west/news/170212/wst1702120026-n2.html
http://www.sankei.com/west/news/170212/wst1702120026-n3.html
http://www.sankei.com/west/news/170212/wst1702120026-n4.html
http://www.sankei.com/west/news/170212/wst1702120026-n5.html
http://archive.is/WefFk
http://archive.is/95zSH
http://archive.is/1ryIN
http://archive.is/DTykP
http://archive.is/ePUA5
松坂桃李さん・菅田将暉さん映画舞台あいさつに天王寺動物園「奇跡のニワトリ」【あべの経済新聞2017年1月29日】