2017年05月31日

高田守先生の生き物語り(番外編)子育ては他人任せ【毎日新聞2017年5月31日】

他の種に子育てを任せることで知られるカッコウ=日光国立公園管理事務所提供
 子育てというのは、多くの生物にとって、労力がかかり大変なものである。もし誰かに代わってもらえるなら、これほどありがたいことはないだろう。我が子を他人がちゃんと育ててくれるなら、自分の血を受け継ぐ子どもの数を大幅に増やすこともできる。子育てに労力をかける生き物なら、一度はトライしたくなること、それが他人任せの子育てなのだ。

 実際に、鳥でも魚でも昆虫でも、他人に子育てをさせてしまう生物がいる。というより、他人に子育てをしてもらえるのに、してもらわない生物の方がまれである。もっとも簡単なのは、子育て中の同種の仲間のところに行き、自分の子をこっそり紛れ込ませる方法だ。あまりに簡単なので、生態の解明が進んでいるほとんどの種で、こうした行動を取る個体が見つかっている。しかし、子育てをする側からすれば、血のつながらない子を育てさせられるなど、迷惑極まりない話である。それゆえ、これに対抗する術(すべ)も進化してきた。子育てを他人に見つかりにくい場所でしたり、近づくものを追い払ったり、自分の子と他人の子を見分ける能力を身につけたりして、ガードを固めているのだ。

 ここまでは同種の仲間に子育てをさせる例だが、異なる種に子育てを任せてしまう生物もたくさんいる。彼らは他人に子どもを育ててもらわなければ、子孫を残すことができない。代表的なのが、カッコウをはじめとする托卵(たくらん)する鳥類だ。

 彼らは、忍び込んだ巣に本来あった卵を捨てたり、見分けられないほどそっくりな卵を産んだりして、相手のガードを破っている。そうして生まれてきた子もまた、血のつながらない「親」からたっぷりと栄養を搾り取る術を身につけている。カッコウのひなが、巣の中にある他の卵をすべて地面に落とし、給餌を独り占めするという話を聞いたことがある人も多いだろう。しかし、托卵先の子どもを皆殺しにして給餌を独占すると、ひなの数が減るため、「親」があまり餌を運んでこなくなるという問題に直面する。そこで、カッコウなどのひなは、複雑な鳴き方をすることであたかもひながたくさんいるように装ったり、他のひなが口を開けているように見える模様の翼を広げたりして親をだまし、たくさんの餌を運ばせるのだ。

 視力が10.0以上あり目がいいことで知られる鳥類にしては、あまりにも単純にだまされすぎでは……? と思われた方、大変鋭い。素人である我々人間が見てもすぐに違いに気づくのに、なぜ彼らは見分けられないのだろう?

 きちんと解明されているわけではないが、考えられる理由はこうだ。まず、親が子を認識する際、彼らは特定の単純な情報に頼っている。先ほどの鳥の例で言えば、赤や黄色のひなの口や鳴き声こそが重要で、その他の情報はほとんど知覚されない。人間でも、授乳中の女性におなかをすかせた乳児の泣き声を聞かせると、スピーカーで再生されていることが明らかな場合でも、泌乳(ひつにゅう)量が増加する。このような、認識の鍵となる情報をうまく利用することで、隠し通していると考えられる。

 また中には、卵を紛れ込ませた後しばしば巣の様子を見に行き、自分の子が育てられていないとその巣を破壊する、というあくどい方法をとる種もいる。「ちゃんと育てないと巣を破壊するぞ」と脅迫することで、我が子を育てることを強要しているわけである。毒を食らわば皿まで、ということなのだろう。(動物行動学者・高田守)=次回は6月30日掲載予定

 たかた・まもる 1984年千葉県生まれ。東京農工大農学部卒。英ケンブリッジ大行動生態学研究室留学を経て、東京農工大大学院連合農学研究科博士課程修了。京都大大学院農学研究科特定助教。専門は動物行動学、進化生物学。現在は生き物の家族や社会の研究に携わっている。趣味の「金魚すくい」は毎年全国大会上位の腕前。
https://mainichi.jp/articles/20170530/mog/00m/100/001000d

http://archive.is/UazOL
高田守先生の生き物語り (番外編)困ったら生き物に教えてもらおう【毎日新聞2017年4月28日】
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タグ:カッコウ
posted by BNJ at 23:42 | Comment(0) | 野鳥ニュース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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