2017年06月19日

世界遺産第1号の島でトマトの先祖に出合う | 薬草の森をめぐる地球旅 -医学の源流を訪ねて- | 鷺森ゆう子 | 藤原幸一 | 毎日新聞「医療プレミア」【毎日新聞2017年6月19日】

ガラパゴスには島々によって甲羅の形が違うガラパゴスゾウガメ(学名:Geochelone elephantopus)が生息している。体重が300kgにもなり、寿命は100〜200年と言われている
健康に暮らす薬草の森をめぐる地球旅 -医学の源流を訪ねて-
世界遺産第1号の島でトマトの先祖に出合う

エクアドル:ガラパゴス諸島沿岸部の「乾燥の森」

 2016年4月から先月まで、南米のアンデス山脈で出合ったさまざまな薬草について、13回にわたって紹介をしてきた。今回からは、エクアドルの沖の太平洋に浮かぶガラパゴス諸島の森で生育する、島固有の薬草を紹介していきたい。

最初の世界遺産の島へ

 エクアドルの太平洋沿岸から約1000km西に、ガラパゴス諸島はある。諸島は10平方km以上の面積を持つ13もの大きな島と6の小島、さらに100以上ものたくさんの岩礁からなる。といっても、島々をあわせた陸地の総面積約7900平方kmは、静岡県ほどの大きさだ。ほとんどが火山島で、諸島の西にあるイザベラ島とフェルナンディナ島の火山は、現在も噴火を繰り返している。


 この小さな諸島には、ゾウガメやイグアナ、アホウドリ、ペンギンなど世界中でここにしかいない固有の野生動物がたくさんいる。ほとんどの野生動物たちは人間を恐れず、すぐに逃げたりしない。むしろ人間のすぐ近くまでやってきたりする。諸島がこの地に誕生して以来現在まで、大陸や他の島に棲(す)むジャガーやピューマ、オセロット、オオカミなどの肉食獣が、海を越えて渡ってこなかったのだ。何万年もずっと、襲ってくる敵がいなかったから、人間も怖くないらしい。

 ぼくはガラパゴスを目指し、エクアドルの首都キトから国内線に搭乗した。機上の人となって2時間ほど、ジェット機の窓から雲の間に真っ黒な玄武岩で覆われている島々が見えてきた。島々の中央にぽっかり開いた丸い噴火口に見とれていると、高度が一気に下がり、がたがたと車輪が滑走路にあたる衝撃が体に伝わった。バルトラ島の飛行場に到着だ。ゲートでセニョーラ・ブランカ・ボホロクエズが迎えてくれた。

 「コモ・エスタ?(元気だった?)」

 「ムイ・ビエン・ビエン!(ええ! 元気、元気!!)」

と笑顔であいさつを交わした。1年ぶりの再会だ。ブランカは、ガラパゴス国立公園公認のナチュラリスト・ガイドだ。ぼくは1991年から、ガラパゴスを何度も訪れ、今ではほとんどの島に上陸している。


家になり、薬になったサボテンの巨木

 今回は久々に、諸島で最も人口の多いサンタクルス島の海岸地帯の植物を撮影することにした。海岸地帯は乾燥気候で年間の降雨量が100mmほどしかない。多肉植物が主な植生で、10m以上の樹状に生育する世界最大のガラパゴスウチワサボテンの森が広がり、独特の景観を見せている。「いつ来ても見事な景色だなあ」と見とれていると、「昔は、このウチワサボテンをいろんなことに使ったんですよ」とブランカは言い出した。


 1978年、ガラパゴス諸島が、ユネスコ(国連教育科学文化機関)によって、世界自然遺産第1号に登録された。それ以来、国立公園内での動物の捕獲や植物の採集が禁止された。それ以前は、巨大なウチワサボテンは家の建材や家具の材料として、重宝されていたのだという。たしかに島の民家を訪れると、柱や壁のしっくいに、乾燥したヘチマのようなウチワサボテンのパルプを見ることができる。

 「他にも使っていたの?」とブランカに聞いてみた。即座に「薬」という答えがブランカから返ってきた。おなかが痛い時や転んでけがをした時の傷の治療に、ウチワサボテンの汁を飲んだり塗ったりしたのだという。さらに水分を豊富に含むため「飲み水」としても使われていたそうだ。ガラパゴスには川がなく、飲み水が貴重だった。今は電気が普及し、地下水をくみ上げた水道が完備され、各家庭に供給されるようになった。昔の子供たちは通学途中などに喉が渇くと、ウチワサボテンをかじりながら歩いたのだという。


「真っ赤な魔法の薬」ガラパゴストマト

 ウチワサボテンの巨木の根元に真っ赤に色づいた小さな実を見つけた。「この植物、覚えてますか?」とブランカが聞いてきた。「あーこれはホオズキ? いや、そうではなく、固有種のガラパゴストマト(Solanam cheesmanii)だったね!」と思い出した。すると「ガラパゴスはトマトの故郷の一つですよ!」と、ブランカが言う。さらに「昔は『魔法の薬』と呼ばれていたくらい、とても重宝な薬草だったんですよ。でも、毒があるからね」と教えてくれた。


 ブランカの家族は昔から、町で薬局を営んでいる。そのせいか、彼女は薬草に関しても詳しい。毒なのに食べられるの?と聞き返すと、「葉も茎も根にも毒があるから、気をつけなくちゃ。若い実も毒だけど、色濃く熟した実だけは食べられるの。実はとても健康にいいんですよ。心臓や目の病気にもいいと言われて、小さい頃はよく食べたんです。昔は島に今ほど何でも売っている店はなくて、ビタミン豊富な果物がなかなか食べられなかったからね」と、懐かしそうに真っ赤な実を摘んだ。

 ゾウガメは好んでガラパゴストマトの実を食べ、その消化に4週間を費やす。その間に、食べられた場所から遠くに運ばれたトマトの種は、ゾウガメのふんに交じって排出され、そこで発芽する。ゾウガメはトマトの種の分散に貢献しているだけでなく、種がふんに交じることによって、トマトの発芽が促進されているという。

 トマトは、ガラパゴス諸島以外では南米大陸のエクアドルやペルー、ボリビア、チリのアンデス山脈高原地帯を原産とする、ナス科ナス属の植物だ。各地の原産地ではガラパゴストマトも含め、今までに12種のトマトの野生種が発見されている。おそらく紀元前からトマトの栽培が行われていたとみられ、その後トマト栽培は、中米へと広まっていった。15世紀に、メキシコ高原を統一したアステカ王朝の時代には、トマトはすでに生活に欠かせない重要な野菜の一つになっていたという。

 ヨーロッパへは、1519年にメキシコへ上陸したエルナン・コルテスがその栽培種(Solanum lycopersicum)を持ち帰ったのが始まりとされている。トマトの語源は、アステカ族が使っていたナワトル語の「トマトゥル」がスペイン語の「トマテ」になり、英語でトマトと言われるようになった。ちなみに学名lycopersicumは「オオカミ人間が食べる桃」という意味だ。


 日本には17世紀の江戸時代に長崎へ伝わったのが最初とされ、18世紀初めに著された貝原益軒の「大和本草」には、「唐柿」の名で記されている。食用として全国的に広まったのは、昭和に入ってからのことだ。現在、世界中で8000種以上もの品種が作られていて、日本でも120種以上が登録されている。

 現代医学の視点からみると、トマトにはビタミンAとC、ビタミンB群である葉酸が豊富に含まれ、さらにリコペンやベータカロテン、カリウム、ルテイン、ゼアキサンチンを含有する。繊維質も多い。そのため、目の健康維持、心臓病と糖尿病、うつ病のリスク軽減などの効果があるとされている。


海辺で育つトマトの秘めた可能性

 ガラパゴストマトの完熟した実は、とても甘くておいしい。その分布は海沿いにまで広がり、海水のしぶきがかかっても元気に育つ。このような生態を生かすことで、塩害に悩まされている世界中の海岸地帯の土地で、トマト栽培ができるようになる可能性がある。

 次回は、ゾウガメが生息するサンタクルス島の湿潤高原の森から報告する。

   ×   ×   ×

参考文献:McMullen, CK. 1999. Flowering Plants of the Galapagos, Comstock Publishing Associates, Cornell University Press, Ithaca and London

【医療プレミア・トップページはこちら】

鷺森ゆう子
メディカル・ハーバリスト
さぎもり・ゆうこ 神奈川県生まれ。動物専門学校看護科卒。日本大学英文学科卒。1994年より動物病院で獣医助手として勤務する傍ら、環境保護のNGOに携わる。海洋環境保護イベントの開催や、中米ベリーズ・エコツアーに参加し、マヤ人の智恵を生かしたナチュラルメディスンに触れ、自然の薬により関心を持つ。このような体験を会報誌へ執筆する。95年から1年間、東アフリカのケニアにて動物孤児院や、マサイ族の村でツェツェフライコントロールプロジェクトのボランティアに参加する。帰国後は再び環境NGOなどに関わりながら、国内での環境教育レクチャーや、中米グァテマラの動物孤児院にてボランティア活動を行うなど、野生生物と人との共生について探求する。06年からフリーで野生生物の生きる環境や、世界の自然医療の現場を巡る。

藤原幸一
生物ジャーナリスト/NATURE's PLANET代表
ふじわら・こういち 秋田県生まれ。日本とオーストラリアの大学・大学院で生物学を学ぶ。現在は、世界中の野生生物の生態や環境問題、さらに各地域の伝統医学に視点をおいて取材を続けている。ガラパゴス自然保護基金(GCFJ)代表。学習院女子大学非常勤講師。日本テレビ「天才!志村どうぶつ園」監修や「動物惑星」ナビゲーター、「世界一受けたい授業」生物先生。NHK「視点論点」「アーカイブス」、TBS「情熱大陸」、テレビ朝日「素敵な宇宙船地球号」などに出演。著書は「きせきのお花畑」(アリス館)、「こわれる森 ハチドリのねがい」「森の声がきこえますか」(PHP研究所)、「マダガスカルがこわれる」(第29回厚生労働省児童福祉文化財、ポプラ社)、「ヒートアイランドの虫たち」(第47回夏休みの本、あかね書房)、「ちいさな鳥の地球たび」(第45回夏休みの本)「ガラパゴスに木を植える」(第26回読書感想画中央コンクール指定図書、岩崎書店)、「オーストラリアの花100」(共著、CCCメディアハウス)など多数。
https://mainichi.jp/premier/health/articles/20170616/med/00m/010/019000c

posted by BNJ at 11:18 | Comment(3) | 海外の鳥ニュース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
>法的に認められた引用の要件を満たす形で行っています。

これは違法コピーですよ
Posted by at 2017年06月20日 13:17
というか、このブログの記事ほとんどすべて、法的に許容された「引用」の範囲を超えた違法コピーじゃないですか。

管理者は「法的に認められた引用の要件」がどういうものかわかっていますか?

関係各所に通報されたら、著作権使用料を請求されますよ。

ご用心ください。

明日になってもこのサイトが存在したら、著作権者に通報します。
Posted by at 2017年06月20日 23:52
コメントいただきありがとうございます。
気づくのが遅くなり申し訳ございません。

個別の記事につきましては各報道機関様の意向に沿う形で対応していることを先に申し上げます。


以下長くなりますが、ご助言いただけたら幸いです。


まず1点目です。

著作権法10条2項 、「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道」は言語の著作物に該当しない

というものがあります。一方で日本新聞協会は昭和53年5月に

「最近の紙面における記事は背景説明の伴った解説的なもの、あるいは記者の主観、感情を織り込んだ記事が多く、紙面構成も高度な創意・工夫がはかられており、、独創的な紙面づくりが行われているのが実情である。したがって報道記事の大半は、現行著作権法に規定される著作物と考えるのが適当である」

という見解を示しています。
この線引は長らく曖昧なままで法的に明確なラインは示されないまま経過してきました。

SNS上等で、新聞紙面の写真をアップして訴える行為も、公益性の観点から黙認されている状況です。
こういった需要からか、新聞社によっては、自らサンプル的に利用可能な紙面画像をインターネット上で提供することをはじめました。

また昨今、記事中のソーシャルメディアボタンからのフィード、ブログ引用など、スクラップサービスなど、実質的に弊ブログと変わらないサービスも提供されており、こういった形で転写された記事はインターネット上に残り続ける仕様です。
OGP(Open Graph Protocol)設定により、引用の意図がない場合でもURLを貼ると勝手に記事が表示されることもしばしばあります。
このようなインターネット上のサービスに関する法的な見解、判例等はまだないようです。

ソーシャルメディアへのフィードについても各社で見解がまちまちで、未だにソーシャルボタンのない新聞社もある一方で、主要なソーシャルメディアのボタンは全て並べているようなところもあります。
統一の見解や利用のガイドラインはなく、NIEを掲げながら、実際は利用者の利便性を全く考慮していません。

こういった引用をせずとも、グーグルのキャッシュに残り続けたり、ウェブ魚拓のようなサービスでも結局は保持され続けます。

このような点について報道機関に問い合わせても曖昧な答えしか返ってこないのが実情で、ブログ、SNS上において報道機関による記事は、黙認ではありますが、かなり広範に利用されています。

実際、「新聞社説まとめサイト」のように主要6紙の社説を8年に渡り3万6千記事以上ストレージしているところもあり、その内容が過去に遡って検証されています。



2点目ですが、新聞報道そのものの内容の妥当性についてです。

新聞が科学的リテラシーに大きく欠けることはすでに公知のこととなりつつあります。
原発放射能関連の悪質な誤報デマ記事が東日本大震災以降主要紙にも多く掲載されました。

鳥類ということであれば、例えば昨今話題の「ニホンライチョウ」、これは不正確な記述です。標準和名は「ライチョウ」です。

情報提供者の主張を鵜呑みにし、誤った同定のもとで、実際とは違う種の鳥の名前を記載した記事もあり、これは誤報といえます。

生態に関する誤りや、本来伏せるべき希少鳥獣の生息地に関する情報、慎重を要する営巣中の情報を載せてしまう例なども多々あり、これらも誤報、もしくは当該生物に対し著しく配慮にかける報道と言えます。
実際に新聞報道後に人が大挙し野生動物に影響を与えた例があります。

「シラサギ」「ペンギン」「カモ」という表記も不正確です。正しい同定、正しい和名は基礎中の基礎です。

「誤認救護」、これは救護の必要のない、親が育雛中の巣立ち雛を、人間が善意から保護してしまうことですが、誤認救護について啓発する記事を書く一方で、誤認救護した野鳥との暮らしを美談のように書く記事が現在もたくさんあります。

鳥類の話ではありませんが、国内外来種の放流の話題を美談のように書く記事も未だ絶えません。


記事が誤っているだけでも問題なのですが、さらには、告知なく記事内容を書き換える例があります。

見出しで誤認救護とわかる内容の記事を、救護した住民への配慮からか、当たり障りのないタイトルに黙って書き換えた例もあります。
改変についての説明は一切ありません。

鳥類の記事ではないですが、有力政治家の、自然環境を軽視する内容の暴言といっていいような発言に関する部分を、その政治家への忖度からか一度は削除し、批判を受けてまた戻す、ということもありました。
こちらも改変についての説明は一切ありません。

弊ブログにも元の記事内容に誤りがあるとのことで、ストレージした記事の削除依頼が来たことがありますが、新聞社による元の記事の削除について、その告知、お詫び、訂正はウェブページ上には示されませんでした。

訂正記事やお詫びが載るケースもありますが、新聞社によってはお詫び記事ですらログインしないと全文が読めない設定になっているところもあり、その姿勢を疑わざるを得ません。

こういったことは、記事の保持期間が短く、書き換えがあっても告知しない現状ではストレージしていないと検証することができません。
誤りの検証以外でも、各社の報道を横並びで見ることで、その新聞社の報道の傾向を知ることができます。
これほどの量をストレージする必要があるかという点につきましては、何があとから誤報だとわかるかは、事前にはわからないのでやむを得ないと考えております。

過去の記事を探すサービスにはELNETがありますが、利用料金もインターフェイスも一般の人が普通に使えるものではないのが実際のところです。

改変について、同一性を保持し主従の関係がじゅうぶんで出典を明記した要件を満たす引用であっても、記事本文が新聞社によって告知なく改ざんされてしまうと、同一性が崩れ、引用側が記事を捏造したと受け取られかねません。

新聞は記事に誤りや改ざんがあってもリコールや返金にもならず、仮にこういったストレージの一切が禁止ということになれば、間違いの検証もできず、誤報を掴まされたまま、有料会員であっても返金も受けられず、新聞社側にとって圧倒的に有利な条件になってしまいます。

結局のところ、「引用」に関して厳しく追求すると、新聞社は自らの脛の傷を抉ることになるため黙認しているというのが実情のようです。
活動の法的裏付けが脆弱ではありますが、こういった理由から一定の公益性があると考え活動をしております。

開発や環境破壊関連についての記事についてのお問い合わせや、誤報に関するお問い合わせをいただくこともあります。

新聞社各位が、正確な記事を書き、一定期間記事を保持し、誤りがあった場合は速やか訂正し、改変した場合は告知する、という当たり前のことさえ行ってくれれば、当方としてもこのような取り組みをする必要がなくなるのでありがたいです。
オフィシャルでやってもらえるのであればそれに越したことはないです。

よろしければ、報道機関へのご連絡の際はこのような点も合わせてお問い合わせいただけると幸いです。
報道機関側からの返答には当方も興味があります。

今までこのような御意見を弊ブログでいただいたことはなく、大変感謝しております。
上記の個別の記事内容、誤報、不正確な表記、改変があったもの等につきましては、ご希望がありましたら具体的に提示いたしますのでよろしくお願います。

このたびは貴重な御意見ありがとうございました。
弊ブログのあり方につきましては、満3年となる今年中に一度検討しようと考えております。
御意見いただけたら幸いです。

Posted by BirdNewsJapan管理人 at 2017年07月09日 14:01
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: