2017年08月25日

記者の目 島根・雲南 コウノトリ誤射 まちづくりに教訓生かせ=山田英之(松江支局出雲駐在)【毎日新聞2017年8月25日】

母鳥が誤射され、兵庫県豊岡市での人工飼育を経て放鳥されたコウノトリ=島根県雲南市で7月12日、久保玲撮影
 島根県雲南市の電柱の上で巣作りし、ペアで子育てしていた国の特別天然記念物・コウノトリの雌鳥が今年5月、ハンターの誤射で死んだ。見守ってきた地元の人たちにとって痛恨の出来事だったが、これを機に住民は「コウノトリと共生するまちづくり」に一層力を注いでいる。死んだ雌鳥は、繁殖地として知られ、保護に取り組んでいる兵庫県豊岡市で生まれた個体だった。私は2011年から2年間、豊岡で取材した。悲しみを乗り越えようとする雲南の姿は先進地・豊岡と重なる。

 誤射が起きたのは5月19日午前10時ごろ。地元猟友会所属の男性ハンターが田んぼでサギの駆除中に見誤って散弾銃で撃った。サギは稲の苗を踏み荒らすとして雲南市で昨年度、130羽が駆除された。県猟友会によると、男性は「正面から見たら白く、間違えてしまった」と説明したという。市教委は同日夜、緊急の記者会見を開いた。重苦しい雰囲気の中、景山明教育長は「残念な発表をしなくてはならない。本当にざんきに堪えない」と切り出した。

自然豊かな地域 子育ての場所に
 雲南市は出雲大社で知られる出雲市に隣接し、面積の大半が林野だ。これまでも島根県にコウノトリは飛来していたが今年3月、県内では初めて雲南市でペアの巣作りが確認された。足輪から福井県越前市生まれの3歳雄と豊岡市生まれの5歳雌と判明した。地元の人たちは静かに見守ろうと、こいのぼりを揚げることや草刈り機の使用を控え、4月に無事ひなが生まれた。国内の野生コウノトリが絶滅した1971年以降、豊岡市やその周辺以外の野外でふ化したのは、徳島県に続いて全国2例目の快挙で、地元は大いに沸いた。速水雄一・雲南市長は「親鳥の頑張りに心から感謝したい」とコメント。住民組織「春殖(はるえ)地区振興協議会」の会長、石川幸男さん(71)は「幸せを運ぶといわれるコウノトリが子育ての場所に選んでくれた。自然豊かな地域であることを誇りに思える象徴的な存在」と喜んだ。

 そうした中で誤射は起きた。「なぜ死なせたのか」。県猟友会や市教委に批判などが多数寄せられた。県猟友会副会長の細田信男さん(70)は「絶対起こしてはいけない事故を起こしてしまった。弁解できない」と悔やむ。緊急役員会議を開き、有害鳥獣の駆除は1人でしない▽誤認しやすい希少鳥類の飛来情報があれば駆除を自粛する−−などの再発防止策を決め、県庁や市役所を訪れて謝罪した。

 誤射によって母を失ったひな4羽は研究機関「兵庫県立コウノトリの郷(さと)公園」(豊岡市)に引き取られた。春殖地区の交流センター前には一時、コウノトリの写真が置かれ、花束や水が供えられた。地区は市に「ひなを地元で放鳥してほしい」と要望書を提出。速水市長は郷公園を訪問して思いを伝え、誤射から約2カ月後の7月12日、4羽は住民が見守る中、雲南市内で放鳥された。うち1羽は8月8日に死んでいるのが見つかったが、残る3羽と父鳥は雲南市周辺で目撃されている。

 地元の市立西小学校は今年度からコウノトリを通した環境学習を4年生の総合学習のテーマにしている。誤射の後も、ひなの成長を伝える掲示板や、地図に目撃情報をシールで貼る「見守りボード」の活動を継続。豊岡市や越前市の小学校との交流も計画している。地区振興協議会もコウノトリが生息できる環境整備に使い道を限定した募金活動に乗り出した。

豊岡がお手本 ブランド化を
 今後のまちづくりのお手本になるのが豊岡市の取り組みだ。豊岡は03年度から「コウノトリ育む農法」として、無農薬や減農薬の田んぼにほぼ1年通して水を張る。餌になる生き物が生息できるからだ。栽培した米は野生復帰を支えるブランド米になっている。このほか、郷公園での人工飼育▽餌場になる湿地の再生▽コウノトリ育む農法で作った米を学校給食で消費▽高さ10メートル超の人工巣塔の建設−−など長年にわたる努力で「コウノトリの飛ぶまち」として全国に知られるようになった。

 雲南市には今回巣作りしたペアや放鳥したひな以外にも複数の飛来が確認されている。郷公園の山岸哲園長は「自然の豊かさを示すもので、第二の豊岡になれるポテンシャルがある」と評価する。豊岡市の市民団体「日本コウノトリの会」代表の佐竹節夫さん(68)は「サギもコウノトリもやって来る田んぼで収穫した安心、安全な米としてブランド価値を上げてはどうか」と提言する。

 野生コウノトリは乱獲や環境悪化によって絶滅した。最後の生息地だった豊岡で89年、旧ソ連から贈られたコウノトリの繁殖に成功し、人工飼育を経て05年、初めて放鳥された。以降、放鳥の取り組みは越前市や千葉県野田市などに広がり、今年6月に野外での生息数が100羽に達した。47都道府県で飛来が確認されており、雲南市のような盛り上がりが各地で起きることを期待したい。それだけに誤射問題から何を学び、まちづくりにどう生かすのか。コウノトリファンの一人として注目し、紙面で伝えていきたい。
https://mainichi.jp/articles/20170825/ddm/005/070/011000c

http://archive.is/MO0Sl
速水・雲南市長 定例会見 コウノトリがすめる環境作りを /島根【毎日新聞2017年8月24日】

posted by BNJ at 11:09 | Comment(0) | 野鳥ニュース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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