2017年09月29日

動物の大量死で何が起こる?イノシシ3トンで実験 集まるハゲワシ、うごめく虫に負けずデータ収集【ナショナルジオグラフィック日本版ニュース2017年9月29日】

【動画】大量死が生態系にどんな影響を与えるかを実験した。ウジの大集団も写っていますので閲覧はご注意ください。(解説は英語です)
 自然界では、生き物が大量に死ぬことがある。いわゆる「大量死」だ。

 カザフスタンでは、サイガという偶蹄類が数週間で20万頭以上死んだことがあるし、チリ南部の入り江では、死んだクジラ337頭が打ち上げられたことがある。ノルウェーでは、300頭ものトナカイが1回の落雷で命を奪われた。(参考記事:「絶滅危惧種サイガが大量死、生息数が半減」、「落雷でトナカイ300頭以上が大量死、ノルウェー」)

 いずれも、2015年以降の出来事であり、気候変動によって大量死の頻度が増している可能性も指摘されている。(参考記事:「動物の大量死が増加、過去70年の傾向を調査」)

「大量死は、生態学的なカオスを生み出す大事件です」と、米テキサスA&M大学の昆虫学者、ジェフリー・トンバーリン氏は話す。しかし、「環境にどう影響しているのかはまったく不明」だという。

 問題は、大量死が予測できないことだ。いったん起こったら、科学者たちは時間をさかのぼることはできない。発生前の状態を測定していれば、動物の死体の山が突然現れたことで生態系がどのくらい変化したか正確に報告できるだろう。しかし、そんなことは不可能だ。

 そこで、米ミシシッピ州立大学のブランドン・バートン氏らのチームとトンバーリン氏は考えた。「大量死の発生を予測できないなら、起こしてみよう」と。

 そうなると、膨大な数の死んだ動物が必要だ。現在、ミシシッピ州を含め米国の多くの地域が野生動物による被害に手を焼いている。幸運なことに、ミシシッピ州立大学の研究者マーカス・ラシュリー氏には、そうした州と連邦政府機関の職員にコネクションがあった。

 彼らとの数回のやり取りの後、死んだイノシシが運び込まれ始めた。(参考記事:「食べ物を洗う、グルメなイノシシが見つかる」)

イノシシの山をどこに置くか

 計画ではまず、20メートル四方の区画を複数作る。そこにイノシシの死骸をそれぞれ数を変えて配置、土壌の化学的性質や微生物からハゲワシ、コヨーテまで、実験前後のあらゆるデータを収集するというものだった。

 しかし、イノシシを集めた研究チームは、別の問題に頭を悩ませることになった。実際の実験をどこですればいいのかという点だ。「重さ1トンを超す死骸を自分の土地に置かせてくれて、腐敗していくのを観察させてくれる人などいませんから」と、ラシュリー氏は言う。

 そんな時、たまたま大学の事務部からラシュリー氏にメールが届いた。大学所有の森林を研究に活用するよう、研究者たちに促す内容だった。ラシュリー氏は、イノシシを使った実験の提案を返信。ミシシッピ州立大学の研究副部長ウェス・バーガー氏は「ちょっと珍しい要望でした」と話すが、大学はゴーサインを出した。

 2016年7月の初めまでに、チームは約1.8トンのイノシシの死骸を集め、基準となるデータを実験開始前に収集し、準備を整えた。その時、電話が再び鳴った。「『死んだイノシシが1トンいるから、あげる。言葉のあやじゃなくて本当に1トンだよ』という。まさかこんなに興奮する電話があるとはね」とバートン氏は言う。

 そこでチームは、0.9トンのイノシシを新たに実験計画に追加。7月5日、仲間の手も借りてイノシシの死骸2.7トンを実験区画に運び、放置して腐敗するに任せた。

米ルイジアナ州、パルメット州立公園のキャンプ場にいるウリ坊たち。幼いイノシシはかわいらしく見えるかもしれないが、こうした侵入種は生態系に大きな打撃を与えている。(PHOTOGRAPH BY RICHARD NOWITZ, NATIONAL GEOGRAPHIC CREATIVE)
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ウジ虫が川のように

 実験開始とほとんど同時に、イノシシの山に降りて来る数十羽のハゲワシが定点観察のカメラに記録された。昆虫を集める粘着性のわなは毎日交換する必要があった。なぜなら「そこに別の虫がくっついたらいけないから」だとバートン氏は言う。死骸にうようよと群がったウジ(ハエの幼虫)は、10センチほどの厚さに積み重なっていた。(参考記事:「ハゲワシ “嫌われ者”の正体」)

 もちろんハゲワシやウジの出現は予想通りだったが、研究者たちは自然の反応の大きさに畏怖を覚えた。「起こっている状況に、私たちはまったく準備できていませんでした」とバートン氏。

「こうして活発に分解が進む間に微生物データを集めるのは、『ツイスター』で遊ぶようなものでした」と、ミシシッピ州立大学のヘザー・ジョーダン氏は言う。「転ばないで、イノシシに乗らないように、そこら中にある死蝋(しろう)も踏まないように」。死蝋は脂肪が分解されて作られる。「汚物にどろどろした液体、それから粘液も踏まずに前かがみになって、死体の中にいる菌の群れを採集して。クモと幼虫と、ありとあらゆる気持ち悪いハエが周りにいましたが」

 生物学的反応は非常に極端で、研究チームはサンプル採取方法の一部を断念せざるを得なかった。ラシュリー氏によれば、分解速度を正確に計る予定で計量してあった腐葉土層は「イノシシから出た粘液に浸かってしまい、結果の解釈がかなり難しくなりました」という。地中にすむ昆虫を採取するわなは、ウジが地上に持ち上げてしまい、「ウジの川に流されて丘を下って行きました」

 ハエが発生すると、スズメバチやアノールトカゲといった捕食者がやってきた。「スズメバチがハエを捕らえて防鳥ネットに止まり、そこにとどまって食べるのが見られました」とバートン氏は言う。「今回見た中で、指折りのクールな光景でした」

 やがて死骸が白骨化すると、うごめくウジの川は離れていき、さなぎになるために泥の中に潜っていった。次いで、アルマジロの群れが実験区画にのろのろとやってくると、ウジにありつこうと、土をはがして回った。こうして地面がかき回されると、土は「変な歩き心地」になったとバートン氏は話した。表面の感触が大きく変わったためだ。植物群落も破壊されたので、新しい種がその一帯に根を下ろすようになった。

 1年以上経った今もなお、この地の生態系には傷跡が残っている。「動植物はいつか元に戻るのでしょうか。おそらく、それはないでしょう」とバートン氏。

ハゲワシの恩恵

 微生物学者のジョーダン氏に気味の悪い思いをさせたのは、絶えず実験用地にいるハゲワシだった。「見上げると、少なくとも15〜20羽が木に止まっていました」と、ジョーダン氏は振り返る。

 一方で実験区画の半分は、ハゲワシなど大型の腐肉食動物が入れないよう、フェンスと網で隔てていた。これらの区画では、イノシシの死骸がなくなるのに時間がかかり、ハエの発生もかなり多かった。「ハゲワシは私たちに恩恵を与えています」とバートン氏は言う。ハエの集団は病気を媒介しうるが、ハゲワシがその規模を抑え込んでいるのだ。

 この研究の中間結果は、今年の米国生態学会と、最近刊行された学術誌「エコロジー」で報告されたが、研究は終了には程遠い。土壌中の微生物群集が時間とともにどう変化するかを追うため、ジョーダン氏は今も試料を処理している最中だ。

 トンバーリン氏にとって、この実験はイノシシの駆除がもたらす環境への影響を際立たせる結果となった。イノシシ自体は侵入種であり、甚大な被害を与える。しかし、大がかりな駆除は他の侵入種の拡大を促すかもしれないという矛盾をトンバーリン氏は指摘している。(参考記事:「米で急増するイノシシ、感染症を拡大か」)

「侵入種は不安定な環境を好む傾向があります」とトンバーリン氏は説明する。「非常に混沌とした環境を作り出せば、足掛かりとなる機会を彼らに与えているかもしれないのです」(参考記事:「アメリカでアルマジロが生息域を拡大」)

「これらの出来事の結果はその場だけで終わらず、まったく予期しないやり方で生態系に次々と変化を起こしていきます」とバートン氏は話す。

 実験開始時のイノシシの死骸3トンは、もうあまり残っていない。だが研究チームは、周囲の森林と区別がつかなくなるまで、実験区画の監視を続ける予定だ。もっとも、永遠にその時が来ない可能性も彼らは指摘している。「今後のキャリアを通じて、測定を続けることになるでしょう」と、ラシュリー氏は見通しを語った。

文=Christie Wilcox/訳=高野夏美
http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/c/092800057/
http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/c/092800057/?P=2
http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/c/092800057/?P=3

http://archive.is/dyQfX
http://archive.is/1MP3Y
http://archive.is/vAOv6

posted by BNJ at 11:31 | Comment(0) | 海外の鳥ニュース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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