2017年12月16日

サルは大西洋を渡った アラン・デケイロス著 奇跡的な出来事を科学する【日本経済新聞2017年12月16日】

 アフリカのダチョウ、南米のレア、オーストラリアのエミューとヒクイドリ、ニュージーランドのキウィと、今は絶滅したモア。マダガスカルの、これも今は絶滅したエピオルニスという鳥。これらはみな、飛べない鳥だ。

原題=THE MONKEY’S VOYAGE (柴田裕之、林美佐子訳、みすず書房・3800円) ▼著者は米ネバダ大非常勤研究員。専門は進化生物学。 ※書籍の価格は税抜きで表記しています

 この鳥たちは、なぜこんな分布をしているのだろう? 飛べないのに、どうやっていろいろな大陸に渡れたのか? 答えは大陸移動。先ほどの場所はみな、大昔にゴンドワナ大陸と呼ばれた一続きの陸地だった。鳥が飛んで行ったのではない。地面の方が動いたのだ。

 というのがしばらく前までの通説だった。私も「すごく美しい」と納得していたのだが、これは違うらしい。それが明らかになったのは、DNAの解析が進んだからだ。遺伝子を使ってこれらの鳥の系統関係を調べてみると、彼らは、ゴンドワナ大陸の分裂という大昔ではなく、もっと最近になって分かれたことが明らかになった。やはり、鳥の方が移動したのだ。

 生物が、なぜ現在見られるような状態に分布しているのかを調べる学問を生物地理学という。元祖はチャールズ・ダーウィンで、彼は、さまざまな生物がどのようにして別の場所に移動していけるかを考え、たくさんの実験をし、「分散説」を唱えた。一方、20世紀の初めにアルフレッド・ウェーゲナーが「大陸移動説」を提唱し、その後プレートテクトニクスという学問に発展して、大陸が動くことがわかった。そこで、生物の分布は大陸移動で説明できるという「分断説」が有力になる。

 ところが、DNAの配列の変化から種の分岐年代を推定する技術が向上していくと、「分断説」の主張と合わない例がたくさん出てきた。話は二転三転。そこで、「分散説」をとるしかなくなるのだが、さて、ではどうやって、カエルやサルが大洋を越えて分散できるのか? 希有(けう)なことでも一度起これば、それで世界は変わる。

 題名にある「サル」は、南米に生息するサル類だが、本書には、アシナシイモリやミミズトカゲなど、およそ海を渡りそうもない生物の話がぎっしり詰まっていておもしろい。「希有で奇跡的な出来事」を科学するにはどうしたらよいのか。これは、地道な証拠の積み上げによる壮大な歴史物語である。

《評》総合研究大学院大学学長 長谷川 眞理子
https://www.nikkei.com/article/DGXKZO2468959015122017MY7000/

http://archive.is/GS4ek

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posted by BNJ at 10:55 | Comment(0) | 野鳥ニュース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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