2018年02月03日

遠い異国で救出、幼い密輸チンパンジーの運命は?【朝日新聞デジタル2018年2月2日】

首都カトマンズ近郊のネパール中央動物園で2017年12月12日、幼いチンパンジーのチャンパにミルクを与える飼育員=Samantha Reinders/(C)2017 The New York Times。もう1頭の年少のチンプ(手前)とともに密輸事件で救出された。この2頭をめぐっては、手放すまいとする地元と、返還を求める故郷ナイジェリアとの間で言い争いが起きている

 私服の刑事たちが、ヒマラヤを望むところで張り込んでいた。密輸された生き物が、生きていることを願っていた。

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 チンパンジーの赤ちゃんが2頭いるとの情報があった。一斉に踏み込むと、息も絶え絶えのさまざまな動物が見つかった。

 空港の税関をくぐり抜けるため、チンパンジーは大きな木箱の真ん中に閉じ込められていた。周りをオウムやキジ、猿の入ったケージが取り囲み、見えないようにされていた。

 この2匹が、遠くアフリカのナイジェリアからネパールの首都カトマンズに着いたときは、体重が半分ほどにも減り、肺炎にかかっていた。

 「とても、チンパンジーが入っているようには思えなかった」とネパール警察の長官ジーバン・クマール・シュレスタは捜索時の状況を語る。「2頭とも窒息していても、おかしくはなかった」

 ネパールは最近、野生生物の世界的な密輸中継地として急浮上している。ここ何年かで逮捕された密輸業者は、数百人にも上る。中国、インドと接する国境は監視が難しく、警察や税関の取締当局は賄賂に弱い。サイの角や、高級織物の材料となるチベットアンテロープの毛。生きている希少なフクロウや、絶滅の危機にある類人猿。関連したさまざまな密輸が、この国を経由するようになった。

 問題は、摘発にとどまらない。保護された動物をどうするかという難問も残る。

 今回の2頭のチンパンジーは、2017年10月17日に救出された。ところが、これを返すよう求めるナイジェリア政府と、2頭をチャンパ、チンプと名付けてネパール中央動物園で育てようとする地元関係者との間でもめる事態になってしまった。

 絶滅の恐れのある野生動植物の国際的な取引を規制するワシントン条約は、保護された生物をもとの国に戻すか、あらかじめ認可された保護施設に収容するよう定めている。

 しかし、その実行となると、容易ではない。動物園と水族館の国際組織「世界動物園水族館協会(WAZA)」の会長ダグ・クレスによると、救出された密輸動物をきちんとリハビリさせられるだけの施設を持つ国はあまりない。適切な施設があっても、治療費やエサ代が高く、簡単には預けられない。それに、「安易にもとの国に戻す方が、無謀な場合だってある」と類人猿と20年ほど関わってきたクレスは言う。このため、原産国に返されるまで、何年もかかる事例が出てくる。

 絶滅の恐れがある類人猿の密輸は、巨額のもうけを伴うビジネスになってしまった。保護活動に携わる関係者によると、毎年、数千頭ものゴリラやチンパンジー、オランウータンが、ヤミ市場でたちの悪い動物園に売られている。エキゾチックなペットとして、売春宿が買い求めたケースすらあった。

 保護された動物は、密輸業者を訴追するための証拠としても必要になり、もとの国に戻すのがさらに遅れることにもなる。

 今回のネパールの事例がそうだ。捜査当局は5人の容疑者を起訴する方針で、チャンパとチンプはそのためにとどめ置かれた状態にある。容疑者はネパールとインド、パキスタンの出身。組織犯罪と認定されれば、最大10年の自由刑が待ち受けている。

 捜査関係者によると、摘発は「荒鷲(あらわし)作戦」と名付けられたおとり捜査の一環として実施された。保護された動物の数は、2頭のチンパンジーなど100を超えた。背後では、鳥などの動物の供給事業をトルコのイスタンブールとカタールのドーハで運営しているナイジェリアの旅行会社などがからんでいた。今回の密輸は、イスタンブールを経由してカトマンズに着くルートだった。捕まった容疑者のうち、カトマンズで鳥類の卸売りをしている2人の男は、税関の職員たちに総額6千ドル(1ドル=115円で69万円)をつかませ、問題の木箱を通関させていた。

 木箱がそのうちの一人の自宅に運び込まれると、インド人2人が合流した。別途、空路でカトマンズ入りしたパキスタン人1人も加わり、最終的に5人が逮捕された。

 捜査協力者の情報によると、2頭のチンパンジーはさらにインドに運ばれる予定だった。この国でも近年は、動物の密輸が急増している。2頭をインドでどうしようとしていたのかは、まだ分かっていない。

 ネパールの国立公園・野生生物保護省の高官ゴパル・プラカシュ・バッタライは、ナイジェリア当局から電話があり、2頭の返還を求められたことを認める。しかし、少なくとも関連の捜査が終わるまでは対応できないとし、送り返す費用もナイジェリア政府に負担してもらわねばならないと語った。

 ナイジェリアから電話したのは、森林担当官庁の幹部Elizabeth Ehi−Ebeweleだった。ナイジェリア側で今回の件について調査をするのに必要なので、自分がバッタライに連絡して2頭の返還を求めたと言う。

 先のクレスによると、チンパンジーが本当にナイジェリアから来たのか、それともアフリカの別の国からなのかを特定するには、DNA鑑定が必要だ。返還を促すために、WAZAは担当者を2017年12月、チンパンジーが預けられているネパール中央動物園に派遣した。すると、この2頭の面倒を十分に見るだけの体制が整っていないことも分かった。

 「チンパンジーの知能は高度に発達しており、知覚も研ぎすまされ、感情も豊かだ。だから、幼少期には1日24時間を通して面倒を見ることも必要になってくる。とくに、野生で捕獲され、密輸されるような状態に置かれ、心的外傷を負っている場合はそうだ」とクレスは強調する。

 これに対してネパール中央動物園側は、チャンパとチンプのこれからについては独自の計画を描いていると話す。2頭とも1歳未満で、体重は赤ちゃんよりも少し重いに過ぎない。

 ここ数年、動物の密輸業者が捕まるたびに、園内の動物の種類は充実するようになった。タカやフクロウ、ワオキツネザルが加わった。

 2頭を中央動物園に訪ねてみると、幼い動物用の区画の地面に置かれたケージにいた。自分の足の指を吸い、バナナの皮をむいていた。メスとオスのこの2頭には、5時間おきにエサをやっていると飼育員は話した。熱帯での暮らしにあわせて、一定の温度を保つようにしているとのことだった。

 副園長のガネシュ・コイララは、この2頭が来たことをとても喜んでいた。園内に最後にチンパンジーがいたのは、1974年だった。レッサーパンダ4頭との交換で、米国から来たチンパンジーのつがい2頭が死んで以来のことだ。すでに予定を組んだイベントもあり、ナイジェリアに戻すなんてとんでもないと言わんばかりだった。

 「誰もが、私たちの先祖を見たがっている。だから、私たちの手で、この2頭を守ってみせる」(Bhadra Sharma and Kai Schultz)

(C)2017 The New York Times(ニューヨーク・タイムズ)
https://www.asahi.com/articles/ASL1H4QCBL1HULPT008.html

http://archive.is/28pNl

posted by BNJ at 11:32 | Comment(0) | 海外の鳥ニュース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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