2013年09月02日

伝える 渡良瀬の流れ 遊水地自然 より豊かに【読売新聞2013年9月2日】

「外来種を除去したおかげかな」。ジョウロウスゲ(手前)を見つけてうれしそうに観察する内田さん(右)(6月22日、渡良瀬遊水地で)=市川大輔撮影
 ふさふさしたタヌキの尻尾のような野草の先端が、風にゆらゆらと揺れている。

 「絶滅危惧種のジョウロウスゲです。遊水地広しといえども、めったに見つけられない種ですよ」。渡良瀬川下流域に広がる渡良瀬遊水地で、NPO法人「わたらせ未来基金」事務局長の内田孝男さん(62)(茨城県古河市)が声を弾ませた。


 遊水地は、見渡す限りヨシ原が広がる本州最大の湿地帯だ。内田さんはここで動植物の調査と希少種の生育を妨げる外来種の除去作業を続けている。「これだけの数の動植物が生育できているのも、渡良瀬の流れのおかげです」

   ◇


 遊水地がある場所はかつて、豊かな農村地帯だった。一帯を巡る渡良瀬川は、足尾山地から溶け出す栄養分を運び、下流域の土壌はよく肥え、肥料がなくても農作物は育った。

 しかし、明治期に入ると、足尾銅山の鉱毒が原因で魚は死に農作物は枯れ果てた。鉱毒と治水対策のため、明治政府が遊水地の造成計画を発表したのは1905年(明治38年)。まもなく一帯は強制買収された。


 わたらせ未来基金が発足したのはそれから1世紀を経た2001年。人が住まなくなった場所に広がるヨシ原とそこに共生する動植物を守るために湿地帯を維持、再生させる研究に取り組んだ。環境保全に向けた啓発活動にもあたった。

 内田さんは「ここにあるのはかつてのこの地域の原風景。村が消え、苦しみや悲しみを重ね、1世紀かけて取り戻した豊かな自然を後世に残したい」と強調する。

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 発足当時、遊水地の将来像を描いた「わたらせ未来プロジェクト」を策定した。最大の目標に掲げたのは、コウノトリを40年後に野生復帰させることだった。

 夢の設定から10年。乾燥化が進んでいる遊水地で、かつて存在した沼地や池、水路の位置を確認し、当時の表土を再現する作業が進んでいる。シベリア南部で繁殖し、日本で越冬する絶滅危惧種、チュウヒ(タカ科)など貴重な渡り鳥が飛来するようになった。

 「いつの日か、渡良瀬遊水地をエコミュージアムのようにしたい」。内田さんは夢を語る。

◆上流・下流・支流 一体化して再生

アサザ基金代表理事の飯島博さん
アサザ基金代表理事の飯島博さん
 わたらせ未来基金の初代代表で、茨城県の霞ヶ浦を拠点とした環境保全活動に取り組むNPO法人「アサザ基金」(茨城県牛久市)代表理事の飯島博さん(57)=写真=の話

 「渡良瀬遊水地の自然再生には、渡良瀬川の上流と下流、無数の支流など、河川を一体として捉える必要がある。これは田中正造の治水のためには治山も必要という“水系一貫”の考え方が基本にある。遊水地のヨシで作った堆肥を足尾の植樹の際に使用する試みはその一つの実践だ。私は現在、遊水地から約50キロ東にある霞ヶ浦の自然再生に取り組んでいる。関東平野の2大湿地のネットワークをつくり上げ、いつの日か日本を代表する特別天然記念物、コウノトリの野生復帰を実現したい」

〈ゆかりの地 歩く〉

◆伝統のザンブリ漁

 小舟の端に突っ立ち、円すい状の網を豪快に水面にたたきつけると、水しぶきが派手に舞った。

 8月上旬。下都賀漁協藤岡支部長の染宮友次さん(77)に渡良瀬遊水地の伝統漁法「ザンブリ漁」を再現してもらった。

魚影目がけて力強くザンブリを振り下ろす染宮さん(渡良瀬遊水地で)
 遊水地は、かつて無数の沼地がある豊かな漁場でもあった。「農家はどこも半農半漁。みんなコイやフナ、ウナギを売り子に売って生計を立てていた」。染宮さんは懐かしそうに話す。一朝で当時の労働者の月給分を稼げたくらい漁が盛んだった時期もあったといい、染宮さんもザンブリ漁で一度に18匹のコイをしとめたことがある。

 しかし、効率の良い定置網と投網が主流となった今、この漁法はほとんど用いられていない。漁業だけで生計を立てることはできず、周辺の農家の多くも漁をやめてしまった。

 ただ、一帯にはよしずやすげ笠(がさ)作りなど、今も広大なヨシ原を利用した遊水地特有の生活文化が細々と息づいている。渡良瀬川がもたらす恵みが古来、この地域に住む人々の生活を支え続けてきた証しだろう。

 遊水地とはいいながら、かつて一帯は、敷地の有効活用を理由にレジャー施設や国際空港を誘致する計画もあった。しかし、紆余(うよ)曲折を経て、現在、様々な生態系の宝庫と認知され、昨夏にはラムサール条約湿地に登録もされた。自然環境とともに、ここで暮らす人々の間で受け継がれてきた生活文化も守り継がれてほしい。(市川大輔)

〈渡良瀬遊水地〉

 渡良瀬川下流域にあり、主に首都圏の水がめ機能(貯水池)を果たす。総面積約33平方キロ・メートルは山手線内側の半分にあたり、本県を含め4県にまたがる。環境省指定の絶滅危惧種を含む約1000種の植物が生育。ワシ・タカ類の越冬地で、野鳥は国内の半数にあたる約250種、このうち絶滅危惧種44種が確認されている。昨年7月、ラムサール条約湿地に登録された。
http://www.yomiuri.co.jp/local/tochigi/feature/CO004142/20130901-OYT8T01060.html

http://archive.is/rvktC

posted by BNJ at 23:00 | Comment(0) | 野鳥ニュース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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