2018年04月27日

NYタイムズ 世界の話題 広大な豪州 鳥の分布調査に新手法【朝日新聞デジタル2018年4月27日】

シドニー郊外の職場で、羽根の入った封筒を取り出すシドニー大学の研究者ケイト・ブランディス=2018年3月13日、David Maurice Smith/(C)2018 The New York Time。豪州の湿地帯が失われつつある中で、そこにすむ水鳥の分布状況を調べるために羽根を送ってほしいと広く呼びかけたところ、全豪各地から720通もこうした封筒が届いた。豪州初の手法で集まった羽根の分析結果は、2018年中にもまとまる

 シドニーの大学に勤めるケイト・ブランディスが、色あせた封筒を受け取ったのは2016年4月のことだった。中には、オーストラリアクロトキの羽根が入っていた。

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 差出人の住所は、シドニー郊外となっていた。日を追って、豪州全土から羽根を届ける封筒が送られてきた。1日に3、4通が届く日も。ペリカン、オシドリ、ウ、アオサギ、ヘラサギ……。

 「本当にワクワクした」とブランディスは振り返る。名門ニューサウスウェールズ大学にある生態系科学センターの主任研究員。湿地帯にすむ水鳥の羽根を送ってほしいと広く呼びかけていた。そして、175人の差出人から720通もの封筒を受け取った。採取地点は480カ所に上った。

 ログイン前の続きなぜ、湿地帯なのか。湿原や沼沢地、干潟などが広がる世界は、多様な生態系を宿し、水質を改善し、洪水や環境汚染の影響も和らげてくれる。

 ところが、20世紀の初めごろからその面積は減り続け、地球の半分の湿地帯が失われたとする推計もある。主な原因は、人間による開発行為だ。

 豪州では、灌漑(かんがい)用に湿地帯から水を引くようになり、7割が消滅してしまったところもある。

 温暖化の影響も、加わるようになった。降雨量が減り、川の流れや洪水の起きるところが変わり、塩害が広がる。それが、豪州に残る湿地帯とそこにすむ水鳥を脅かしている。

 「洪水時に浸水する氾濫原(はんらんげん)が水に満たされるのは数年に1回だが、そのときは何十万羽もの水鳥が営巣に集まってくる」とブランディスは語る。しかし、水が引くと、みんなどこかに行ってしまう。「次の洪水まで、姿を見かけることはない」

 では、どこから来て、どこに消えるのか。ブランディスらの専門家の大きな謎となっていた。「追跡調査をできないので、見当のつけようもなかった」

 追跡には、鳥に識別標をつける方法が一般的だが、豪州ではうまくいかなかった。一例は、ムギワラトキだ。1955年から5万7千羽に装着したが、生きて確認できたのは15羽に過ぎない(死んで見つかったのは360羽)。もともとトキなどは死亡率が高いということもあるが、豪州の広大さも大きな要因になっている。内陸にいる鳥は、そもそも人間があまりいないところに生息しているからだ。

 そんな状況を知って、ブランディスに特別に協力してくれた人もいる。ニューサウスウェールズ州クエンビャンに住むコーリー・ケンプ(73)と夫のピーターだ。わざわざ3カ月をかけて、クイーンズランド州の西部を回り、羽根を集めてくれた。「それも、誰も行かないようなところを選んで」とケンプ。採取用の日記をつけ、何度もブランディスと連絡をとりながら動いた。

 送られてきた羽根は、ブランディスの職場で整理される。灰色や黒のつやつやした色調のさまざまな羽根。それを仕分けした黄色の封筒が、机いっぱいに置かれている。羽根を集めるのは、まだやさしい方だ。「大変なのは、きちんと整理すること」

 鳥の羽根は、人間の髪やツメと同じようにケラチンというたんぱく質でできている。羽根の成長には、その鳥のエサの採り具合が刻み込まれる。木の年輪を思い浮かべてほしい。十分なエサがあったのかどうか、羽根を調べれば分かる。

 とくに、幼鳥の羽根は貴重だ。まだ、生まれた湿地帯でしか育っておらず、そこがどんなところなのか、人間で例えれば「指紋」にあたる記録が刻まれている。これと、大きくなった鳥の羽根を比べれば、どんなところを移動しているのかが分かり、その湿地帯が豊かなところだったのか否かも地図に描くことができるだろう。

 そうすれば、どの湿地帯を優先して保護すべきなのかが浮かんでくる。湿地帯の保全をうたう国際条約としてラムサール条約が1971年に結ばれてから、豪州では65の地域が登録された。今回の羽根の収集で、とくに重要な湿地帯が確認されれば、「その保護に拍車がかかるようになる」とブランディスは期待する。そのためにも、2018年末までには、分析結果をまとめたいと言う。

 今回と似たような手法は、世界的に見れば、すでに登場している。北米では大型のチョウであるオオカバマダラの渡りを追跡するのに用いられ、欧州では鳥が対象となった。しかし、豪州ではこれが初めての試みだ。

 「手間のかかる大変な作業が必要だ」と2004年にこの方法でオオカバマダラを追跡したカナダ・ウェスタン大学の教授キース・ホブソンは、自らの経験を語る。そして、ブランディスの手法については、水鳥を知るのに湿地帯を調べるのではなく、湿地帯を知るのに水鳥を調べるという「逆転の発想が面白い」と評価する。

 羽根の代わりに、別の対象を選んで応用することもできよう。

 ブランディスは、シドニーのタロンガ動物園と一緒に、豪州などに生息するハリモグラの「針(訳注=体毛が変化したトゲ)」を調べている。野生そのもののモグラなのか、捕獲されて育ったのか。針に刻まれたエサの採り具合などから判別できるようになれば、密猟かどうかを見分けることが可能になる(ハリモグラは野生でないと繁殖が難しいが、捕獲して繁殖させたと偽って輸出する事例が毎年数十件もある)。

 とりまく環境が刻み込まれる動物の組織は、羽根や針に限らず、無数にありそうだ。「今、やっていることは、氷山の一角に過ぎない」とブランディスは話す。

 そんな探究心は、羽根集めに協力してくれた先のケンプ夫妻にも乗り移っている。「鳥にそれほど大きな関心があったわけではない」と妻は明かす。でも、集めた羽根をもとに分布図まで描くことができる面白さに、「はまってしまった」。

 どうやら、立派なアマチュア研究家が誕生したようだ。(抄訳)

(Livia Albeck Ripka)

(C)2018 The New York Times(ニューヨーク・タイムズ)
https://www.asahi.com/articles/ASL4951JBL49ULPT00F.html

http://archive.is/Lmg9N

posted by BNJ at 21:48 | Comment(0) | 海外の鳥ニュース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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