2018年05月30日

くらしナビ・環境 小笠原諸島はいま/下 空港と自然 住民の思い複雑【毎日新聞2018年5月30日】

保護策が奏功し、近年生息数を増やしているアカガシラカラスバト=東京都小笠原村で、宮武祐希撮影

固有種のオガサワラビロウの前で話す松原邦雄さん=東京都小笠原村で、宮武祐希撮影

 小笠原諸島は、ハワイなどから移り住んだ欧米系島民や本土などからの移住者が独特の文化を作り上げてきた。陸続きになったことがない海洋島は固有種の宝庫で「東洋のガラパゴス」とも称され、近年はエコツーリズムの先進地として、多くの人を魅了してきた。そうした自然と文化が豊かなこの地で「島民の悲願」(森下一男・東京都小笠原村村長)とされる空港建設はどうとらえられているのだろうか。父島で聞いた。【荒木涼子】

 空港予定地は、定期船が寄港する父島の玄関口・二見港の南にある。その近く、旧日本軍の沈船がある境浦を見下ろすジャングルで、戦闘機が朽ち果てていた。半世紀を経て機体はさび、亜熱帯の植物が周囲に茂る。

 「旧日本軍に撃墜されたアメリカ軍の戦闘機です」。30年以上ガイド業を営む松原邦雄さん(60)は「戦争は勝っても負けても犠牲が出る。一方で小笠原は、植物にトゲがないなど他を攻撃しない生き物が多いのも魅力」と話す。松原さんも空港建設の行く末は気になる。「行き過ぎて歯止めがかからなくなるのが人間。空港問題も長い目で考える必要がある」と話す。

 空港開設の計画はこれまで何度も浮上しては中止になってきた。居酒屋で2代目の店長を務める菊地圭さん(38)は、「(空港が)あったらと思うこともあるが、何とかなっている。今の生活に不満はない」という。「そもそも何度も頓挫していて、できるとは思っていない」と続けた。

 一方で、医療や福祉の観点から建設を望む声もある。約20年前に家業を継いだ自営業の女性(49)は「小笠原は産めなくて安心して死ねない島」と表現する。小笠原村には診療所があるが産科医はいない。生命に関わるけがなどの場合は、南に約280キロ離れた硫黄島に配備されている自衛隊機で本土の病院に搬送される。しかし、それ以外のけが・病気や出産の場合は、約6日に1度運航され東京都心まで約24時間かかる定期船で渡るしかない。女性は「島で生きてきた私たちは、老後も島で暮らすことになるが、介護施設などは心もとない。飛行機があれば、大きな病院への通院もしやすくなる。本土との時間も短くなり、もしもの時に安心だ」と期待を込めて話す。

 また、欧米系島民の5代目である瀬堀ロッキさん(57)は終戦直後、疎開先から帰島し、アメリカ統治当時の島を知る数少ない人物だ。「返還から50年を迎える小笠原は、そもそも島民が一丸となって、島を作り上げてきた歴史がある。次の50年をどうするかも私たち次第だ。空港を造ったとしても採算が合わず、税金を投入することになるだろう。税金に頼り過ぎない“自立の道”を考えなければならないと思う」

 環境保護の観点から空港問題を見る目は厳しい。「時代が進み、自然を保護する段階から共生へと変わった。今、空港を望む人がどのくらいいるだろうか」。自然ガイドで、アカガシラカラスバトの保護に詳しい宮川典継さん(64)はこう強調した。アカガシラカラスバトは一時は生息数が数十羽にまで減少。環境省のレッドリストで絶滅危惧1A類に指定される“幻の鳥”だ。父島では、営巣地となる森への入場規制を行うなどの保護活動が奏功し、生息数が約600羽にまで回復したとされる。

 それでも宮川さんは「森など生息環境の回復は道半ば」と話す。加えて、このハトの天敵となったノネコの脅威もまだ続いており「一進一退の状況」(環境省)だ。宮川さんは陸域だけでなく、海のガイドもこなす。「青い海と空、地球そのものを感じられるのが小笠原諸島。次の時代にどうこの自然を引き継ぐかが今、我々に問われている」
https://mainichi.jp/articles/20180530/ddm/013/040/016000c

くらしナビ・環境 小笠原諸島はいま/上 空港建設、環境影響は必至【毎日新聞2018年5月10日】

父島・洲崎地区にある空港建設予定地。旧日本海軍の滑走路跡地はうっそうとした森に囲まれている。左上は二見湾=東京都小笠原村で4月、宮武祐希撮影

 6月に返還50年を迎える東京・小笠原諸島。小笠原村の森下一男村長(69)を中心に父島での空港建設に向けた動きが加速している。小笠原諸島には独自の動植物が多く存在し、空港建設による環境への影響は必至だ。ただ、村と本土を結ぶ交通手段は現在、6日に1往復程度で片道24時間かかる定期船だけ。村民の中には、医療面の充実などを理由に航空便の就航を望む声もある。世界自然遺産登録の2011年以前から、自然と人間との共存の道が模索されてきた小笠原諸島。村民は空港建設をどのようにとらえているのか。【荒木涼子】

 東京都心を出港しておよそ24時間。空と海が濃い青を映し出す父島・二見港に「おがさわら丸」が入った。さらに車で約15分。島の中央部に位置する洲崎地区に着いた。

 空港の候補地に挙げられている洲崎地区。西に突き出た半島となっている地域には、太平洋戦争中に整備された旧日本海軍の滑走路がある。その跡は約300メートルほどの砂利道が残っているだけで周囲は固有の植物などに囲まれており、遠くで小笠原諸島の固有亜種のオガサワラヒヨドリがさえずっていた。半島から見える静かな海には、イルカウオッチングのクルーザーが行き来していた。

 「空港建設に向けて協力していきたい」−−。16年6月、都内で開かれた世界自然遺産登録5周年を祝うイベントで、丸川珠代環境相(当時)はこう切り出した。また、その4カ月後には就任間もない小池百合子都知事が村を視察後、「都は(空港建設を)前向きに考えている」と発言。「それまでしばらく凍結状態だった空港建設問題の議論がふたたび表に出た瞬間だった」と関係者は振り返る。村の担当者は「返還50年を前にしたこの時期に、国や都が前向きになってくれたのは、村としてはありがたかった」と述懐する。昨年7月には、空港問題に関する都と村の合同協議会を7年ぶりに再開。候補地として絞られた洲崎地区での建設案が示された。

「最後の候補地」
 その案では、旧日本海軍の滑走路とその周辺を20メートルかさ上げした後、長さ1200メートルの滑走路を建設。定員約50人のプロペラ機を就航させ、本土との所要時間は約2時間半と想定している。

 島は「東洋のガラパゴス」と呼ばれる独自の生態系などが評価され、11年には世界自然遺産に登録された。洲崎地区はその区域からは外れているが、空港建設のためには、自然公園法で特別保護地区に指定されている地域を切り崩す必要がある。

 空港の予定地を巡っては、これまでもさまざまな場所が取りざたされた。しかし、周辺環境への影響などを理由に「不適」とされた。関係者の間では「この場所が最後の候補地」(都島しょ振興専門課)というのが共通の認識だ。村役場で空港問題を担当する樋口博企画政策室長は「島の自然は世界に誇るべきものだ。空港建設も環境にできる限り影響のないようにする。今の技術なら可能なはずだ」と話す。

 一方で、空港建設や航空便の就航には異論もある。村議会の小笠原航空路開設推進特別委員会で委員長を務める一木重夫村議(46)は「医療など村民の福祉のために空港は必要だ」との立場だ。それでも「観光の観点からは『小笠原は交通アクセスが悪い』のも魅力の一つ。航空便が就航しても観光資源が豊富な沖縄などの離島には勝てない」と話す。また、長年、村で観光ガイドを営む宮川典継さん(64)は「隔絶された自然に魅力を感じ、移住する人も少なくない。就航後に『採算が取れない』となっても、壊された自然は戻らない」と危機感を募らせる。=次回は5月30日掲載

 ■ことば

小笠原諸島
 東京都心から約1000キロ南の太平洋上にあり、南北約400キロに大小30の島々が連なる。人口は2647人(3月1日現在)で、島が誕生した4800万年前から、陸続きとなったことがない「海洋島」で構成されている。偶然たどり着いた生物が独自の進化を遂げた固有種(陸産貝類の94%、昆虫類の28%、植物の36%)や希少種の割合が極めて高い。環境変化への適応力が乏しい固有種たちが作るのは、もろくて元に戻りにくい“ガラスの生態系”だ。
https://mainichi.jp/articles/20180502/ddm/013/040/029000c

http://archive.is/aajk4
http://archive.is/Rd9RR
小笠原 悠々と滑空、一羽のオガサワラノスリ 父島【毎日新聞2018年5月3日】

posted by BNJ at 11:13 | Comment(0) | 野鳥ニュース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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