2018年06月12日

出会いの季語 鳰、ただ今子育て中=高田正子【毎日新聞2018年6月12日】

 井の頭恩賜公園へ鳰(にお)の浮巣を見に行こうという案内をいただいた。鳰はかいつぶりのこと。水に浮いて見える巣を作る。あいにくその日は用がありご無礼したが、帰りに公園へ寄ってみることにした。

 東京都三鷹市と武蔵野市にまたがる広大な公園である。目ざす「井の頭池」だけで東京ドームくらいの広さらしい。まずはボート乗り場付近へ向かう。

五月雨に鳰の浮巣を見に行(ゆか)む 芭蕉

 雲がちではあったが差すなら日傘という天気だ。向こう岸へ掛かる橋の上は風が心地よい。が、渡りきる手前で視野の片隅に何かひらひらするものが−−蛇だ! 見事な泳ぎぶりに思わず立ち尽くして見送ったが、鳰の子の身の上が心配にもなる。

 浮巣を求めてしばらくうろうろしていると、鳰の笛と称されもする鳴き声が二つ、呼び交わしながら近づいてきた。二羽は池畔の桜の枝先が水に浸(つ)いて、もやもやしている辺りに向かっている。もしや! 遠目ではっきりしないなあと欄干から乗り出していたら、カートを引いたご婦人が「何かありますか」と話しかけてこられた。

 「巣なら向こうのボートが来ない辺りに一つありますよ」

 なにしろ東京ドーム一つ分の池である。思わず駆け足になった。

 そして、それはあった。声をひそめてしまいそうな場所に、夕方の木洩日(こもれび)に瞬きながら。

雨にすぐ輪を生む池の浮巣かな 鷹羽狩行

 私が初めて浮巣を見たのは、梅雨時のこの句のような日だった。鈍い光の水面にさざ波の引っかかるところがあって、それが浮巣だった。

 それに比べると立派な巣だ。絶好の観察ポイントにカメラを持った先客が一人。ややあって自転車でもう一人。「もうすぐ卵を抱くのを交替しますよ。ほら、一羽帰って来たでしょ」。あと一週間で孵化(ふか)するだろう、とその人はおっしゃった。

濡(ぬ)れてゐる卵小さき浮巣かな 山口青邨

 (たかだ・まさこ=俳人)
https://mainichi.jp/articles/20180612/ddm/014/070/051000c

http://archive.is/bCiAX

タグ:カイツブリ
posted by BNJ at 09:32 | Comment(0) | 鳥類コラム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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