島民らの出迎えに車の中から手を振る天皇、皇后両陛下=2018年8月4日午後、北海道利尻町、白井伸洋撮影
日本最北の百名山・利尻山(標高1721メートル)を背に、天皇、皇后両陛下は4日、特別機を降り立った。利尻島は周囲約60キロ、人口約4600人の小さな島。在位中最後の見通しとなる離島訪問の地で、両陛下は大勢の島民と観光客、そしてさわやかな潮風に迎えられた。(奈良山雅俊、島康彦)
利尻空港で子どもたちの出迎えを受けた後、両陛下は「ウニ種苗生産センター」を視察した。利尻島の基幹産業は漁業。中でも甘みの濃いエゾバフンウニは10年前の洞爺湖サミットの晩餐(ばんさん)会でも使われた利尻コンブと並ぶ島の特産だが、一時期の乱獲や水温上昇などによる環境変化で大きく資源を減らした。
利尻町は約40年前、バフンウニの養殖事業を始めた。その後、人工的に受精させて稚ウニを育て、いまは毎年400万粒の稚ウニを放流している。漁業者は200人あまりで、この約30年で7割近く減ったが、放流事業もあって1人あたりの水揚げ量は増え、所得増につながっている。
説明役を務めた宮田秀彦・利尻町まち産業推進課長(50)は、天皇陛下が尋ねたエゾバフンウニと本州のバフンウニの違いなどを説明。皇后さまは短いとげがあるエゾバフンウニの標本を手にとった。その後、ウニ漁に携わる漁業者や殻むきをする女性たちに「体は大丈夫?」と気さくに声をかけていた。
宮田さんは「いまはウニの赤ちゃんを育てている最中で、そんな様子も見てもらえた。資源の回復と魅力ある漁業の確立を目指す離島の取り組みを聞いてもらえてよかった」と話した。
動植物について熱心に質問
島屈指の観光名所「オタトマリ沼」。周囲約1キロの島最大の湖沼で、両陛下は皇太子が結婚前に登った利尻山を眼前に望み、ウミネコが淡水の沼で水浴びをする珍しい光景を観察した。
利尻島は日本最大のウミネコの繁殖地で、毎年4月から数万羽が飛来する。いまは子育ての終盤で、南下に向けて幼鳥も飛ぶ練習をしている。自然豊かな島の象徴的存在だが、無事に巣立ちを迎えられるのは3割程度。カラスやオジロワシに狙われ、厳しい自然にさらされている。天日干しの利尻コンブにフンを落とし、漁業者には厄介者だ。
「あの鳥は?」との天皇陛下の問いに、環境省稚内自然保護官事務所の有山義昭・首席自然保護官(38)は「ウミネコです」。厄介者のウミネコのフンは、海水に溶けて利尻コンブに栄養を届ける役割もあることを説明した。陛下は沼に生息する魚類や植物についても熱心に質問していたという。
有山さんは5年前の第64回全国植樹祭(鳥取県)でも両陛下の先導役を務めた。「覚えていらしたのか皇后さまからお声をかけられました。まさか一生に2度あるとは。最後の離島訪問の地で、利尻の雄大な自然を満喫していただけたと思います」と話した。
「感無量」涙目の島民も
島の道路沿いや市街地では、大勢の島民や観光客が日の丸の小旗を手に両陛下の来島を歓迎した。
昼食に立ち寄った利尻町交流促進施設「どんと」前に並んだ漁業者の男性(70)は「感無量。ただそれだけ」と唇を結んだ。「一生に一度でいいから天皇陛下と長島(茂雄さん)を見たかった」と言って亡くなった父親を思い出し、「親子二代の夢をかなえられた」と涙目で語った。
栗原江利子さん(50)は「平成の最後にぜひ」と、母の渡辺トシ子さん(78)と母の友人の網塚美世子さん(85)と稚内市から朝一番のフェリーで訪れた。栗原さんは「手を振る美智子さんは控えめで、とてもすてきな人でした。2時間待ってわずか10秒でしたが、しっかり目に焼き付けました」と話した。
オタトマリ沼では、両陛下が売店の店主や従業員にも「頑張ってくださいね」と声を掛けた。「まっちゃんの店」の店主、今野征一さん(75)は島の中学を卒業後、小樽の高校に進学し、2年の時に両陛下の結婚祝賀パレードを下宿のテレビで見た。「美智子さんはいまもおきれい。お会いできるなんて思わなかった。両陛下が島を知っていてくださっただけでもありがたい」と話していた。
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