2018年09月07日

野鳥撮影 先駆者のとりこ  記録性と美しさ 生態写真家・下村兼史の作品を世に 塚本洋三【日本経済新聞2018年9月7日】

 「山階鳥類研究所(千葉県我孫子市)にすごいお宝が眠っている」。そう教えてくれたのは、2005年に急逝した写真家の吉田元氏だった。

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 ネガやプリントを整理

 お宝とは日本の野鳥生態写真の先駆者、下村兼史(けんじ)(1903〜67年)が残したネガ、プリント、原稿、書簡類である。遺族が寄贈したのだが、整理に手が回らないままになっていた。「洋ちゃんの仕事だぞ」。吉田氏から生前にかけられた言葉は遺言のように私の心に残っていた。

下村は巣穴に飛び込むルリカケスなど、貴重な写真を多く残した

 幼いころから鳥が好きで中学3年生のとき、日本野鳥の会に入る。吉田氏と出会ったのも野鳥の会だ。高校生のとき、古書店で見つけた下村の「鳥類生態写真集」を背表紙が破れるまで読み込んだ。「こんな自然のままの写真を撮る人がいるのか」。大きな衝撃を受けた。今でもその価値は色あせない。

 実際に何度か会ったこともある。野鳥の会の会員に下村のおいがおり、そのつてで自宅に遊びにいく幸運に恵まれた。せっかく憧れの人に会えたのだが、学生だった私は恐れ多くてほとんど話しかけることもできなかった。非常にもの静かな人だった。

 05年、吉田氏の言葉に背中を押され、山階鳥類研究所の当時の所長だった山岸哲氏に「下村の写真を整理したい」と掛け合う。山岸氏の尽力もあって、任せてもらえることになった。研究所に残っていた資料は段ボール5箱分にものぼる。中には、私がかつて読んだ本に載っていた写真のガラス乾板、ネガなどが山になっていた。

 写っている鳥は何か、時代はいつか、場所はどこか。自分が蓄積してきた鳥の知識に加え、過去に下村が書いた文献などをひもとき、研究所のスタッフの力も借りて一つ一つ確かめながら、全ての資料に番号をつけて選別していった。

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 地道に1点ずつ確認

 難題は段ボールの中の品が、本当に全て下村が撮った写真なのか分からないということだった。これは地道に1点ずつ確認するほかない。実際、下村の同僚が撮ったことが判明した写真もある。

 「トキの胃内容物」(1933年)がそれだ。過去に下村の撮影だと、文献で見たことがあった。さらに、写真に裏書きされた日付が下村がトキを撮影した日と合致していたこともあり、すっかり下村の写真だと思い込んでいた。しかし、詳しく調べているうちに「石澤慈鳥撮影」と記された文献を見つけた。

 一体どちらが撮ったのか。その謎を解くヒントは写真の裏に押されていた「マツバ西荻窪」の刻印だった。古地図に詳しい友人に現在の場所を調べてもらい、訪ねていくと、かつてそこに写真館があったと分かった。石澤の遺族にも確認したところ、その写真館によく現像を頼んでいたことが判明したのだ。私たちは石澤が撮った可能性が高いと判断した。

 下村の足跡は北は北千島から南は奄美大島、小笠原諸島まで及んでいる。写真機が今では考えられないくらい大きく、性能が悪かった時代、それを担ぎ、自然の奥深くに分け入った。映画を撮り、自ら文章を書き、絵も描く多才ぶりだった。しかし残念ながら、その功績は広く知られているとはいえない。

 100年前に日本で初めて撮ったカワセミ、2枚しか写せなかったルリカケス、松の木の上の巣でたたずむコウノトリ……。下村が猛スピードで飛び回る鳥を性能が良くない当時のカメラで撮ることができたのは、生態を十分に理解し、粘り強くシャッターを切る瞬間を待っていたからにほかならない。

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 周囲の環境も写し取る


 その価値は記録性というだけにとどまらない。下村の写真は鳥の姿だけではなく、周囲の環境まで写し取っていた。鳥類写真というと、鳥の姿を単純に大きく捉えるものが多いが、下村の構図には芸術作品とさえいえる美しさがある。

 一通り整理を終えて、下村の写真をより多くの人に見てもらいたいとの思いが募ってきた。下村のオリジナルプリントや鳥類図鑑の原画などを集めた写真展「100年前にカワセミを撮った男」を21日から有楽町朝日ギャラリー(東京・千代田)で開催する。多くの人にとって、自然環境への関心を深めるきっかけになるよう願っている。

(つかもと・ようぞう=山階鳥類研究所特任研究員)
https://www.nikkei.com/article/DGXKZO35061970W8A900C1BC8000/

1世紀前、野鳥に迫った 下村兼史写真展【朝日新聞デジタル2018年9月20日】
カワセミ(1922年、山階鳥類研究所蔵)

 野鳥撮影の先駆者下村兼史(けんじ)(1903〜67)の写真展が21日から、東京・有楽町マリオン11階の有楽町朝日ギャラリーで開かれる。撮影機材が充実していなかった100年前、希少な野鳥に間近に迫り、カメラに収めた約50点が紹介される。

 下村は佐賀県出身。野生の生物を写真で記録することが少なかった…

残り:287文字/全文:437文字
https://www.asahi.com/articles/DA3S13684828.html

http://archive.is/qcxUK
http://archive.is/W22mk

posted by BNJ at 10:32 | Comment(0) | 野鳥ニュース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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