2018年11月06日

【一筆多論】走る生活は水辺とともに 内畠嗣雅【産経ニュース2018年11月5日】(葛西臨海公園)

東京都江戸川区の葛西海浜公園。ラムサール条約の保全対象リストに登録された=10月17日(共同通信社ヘリから)

 近年のランニングブームを生み出した要因の一つとして、都会の人口密集地で、走る場所が増えたことが挙げられる。昭和59年発足という東京都江東区のランニングクラブの古参メンバーに聞くと、当時は「木場公園」も「隅田川テラス」も、もちろん豊洲市場周りの「豊洲ぐるり公園」もなく、区内の小さな公園を走っていたという。

 東隣の江戸川区に「葛西臨海公園」ができたのは5年後の平成元年だった。臨海公園も格好のランニングコースだが、その先に広がる2つの人工なぎさからなる「葛西海浜公園」は、国際的に重要な湿地の保全を目指すラムサール条約の登録湿地である。先月、志津川湾(宮城県南三陸町)とともに登録され、国内の登録湿地は52カ所となった。


 ラムサール条約は昭和46(1971)年、イランにあるカスピ海沿岸の町ラムサールで採択された。干潟や湖沼、川岸や海辺の浅瀬、水田などの湿地は魚介類、底生生物の宝庫で、たくさんの水鳥が生息する。これらの湿地は、多国間条約で国際ルールを決め、保全する必要がある。水鳥の多くは国境を越え移動するからだ。日本は55年に加盟し、第1号として北海道の釧路湿原が登録された。

 ラムサール条約の特色は、自然保護のために厳しい規制を課すのではなく、人と自然との相互依存を前提に、湿地の「賢明な利用」を掲げた点だ。水鳥のすまいである水辺は人にも、海や川の豊かな恵みを提供する。生態系の自然特性を変化させない方法で、湿地を持続的に利用していこうという趣旨である。

 日本はアジアで初めて、ラムサール条約締約国会議を誘致し、平成5年、釧路会議が開催された。これを契機に、政府が自治体などに積極的な登録申請を呼びかけたこともあって、条約と、多様な生物を育む湿地への関心が高まり、その後、琵琶湖や宍道湖、東京湾の谷津干潟、伊勢湾の藤前干潟など、登録湿地は着々と増えていった。


 橋を渡った葛西臨海公園には淡水池、汽水池を持つ野鳥のための森もあり、葛西海浜公園には、多数の水鳥が飛来する。2つの公園は、子供たちの遊び場でもあり、週末にはたくさんの子供たちが広場を駆けまわり、岩場でカニを捕り、なぎさで砂にまみれている。自然との共生を示す風景の一例といえよう。

 残念なのは、海浜公園のラムサール条約登録の周知が十分に行われず、来園者にも知らない人が多いということだ。派手な祝賀は不要としても、子供たちが湿地の「賢明な利用」について考え、同じ水鳥の飛来地として、カスピ海をはじめ世界中の湿地に思いをはせる機会とすべきである。

 臨海公園からは、荒川や旧江戸川の堤防へと走っていくことができる。思えば、私たちが走っている場所の多くは水辺である。大阪の「中之島公園」や「狭山池」、さいたま市の「別所沼公園」もそうだ。「皇居ラン」もお濠(ほり)に沿って走るのである。湿地の保全の広がりと走る場所の増加は、重なるところがあるような気がする。走ることは、水辺や自然と共生するということなのだ。(論説委員)
https://www.sankei.com/column/news/181105/clm1811050003-n1.html

posted by BNJ at 21:54 | Comment(0) | 鳥類コラム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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