2018年11月25日

佐渡のトキ、放鳥10年(風紋)【日本経済新聞2018年11月25日】

明治以降の乱獲や環境悪化で日本から姿を消したトキの人工ふ化と繁殖を経て、新潟・佐渡島で放鳥が始まって10年。いま369羽を数える野生トキを支えてきたのは農薬使用を抑え、餌の生き物を育んだ地元農家の活動だ。収量の減少よりも自然環境の向上に思いを寄せた。日本海を楽に渡る力を持つトキが、各地で心地よく暮らせる環境づくりが今後の課題だ。

収穫の終わった水田に餌を求めるトキ(新潟県佐渡市新穂地区)

稲の収穫が終わった佐渡市新穂地区。11月上旬の早朝や夕方のしじま、稲刈り機のわだちに水が残る水田にトキが3羽、4羽とピンク色の羽を広げて降り立ち、長いくちばしでドジョウやミミズをついばんだ。

野生のトキが姿を消していた約30年前、この地を取材で訪ねた。「トキのふるさと」という看板を見て、降るようにトキが舞い降りる姿を想像した。それが島の日常風景になっていた。

田の縁では、2001年に「佐渡トキの田んぼを守る会」を近隣農家と結成した斎藤真一郎さん(57)がくわを入れる作業に汗を流していた。田が乾く秋から冬、水をためる「江」という深みをつくる。トキの餌となるミミズやドジョウの生息場だ。冬にも水がある田も、ドジョウの越冬やカエルの産卵場所となる。

「来年のコメ作りを考えれば土を乾かして肥やすべきだが、トキの食べ物づくりが大事。ドジョウもミミズもカネにならないが、たくさん生き物がいる田んぼは人間にも安全安心だ」。斎藤さんは確信する。

守る会はトキ放鳥を見据えて無農薬・減農薬、あぜの除草剤不使用、田んぼ内での年2回の生き物調査などの規則を決めた。同様のルールでのコメづくりを佐渡市に「朱鷺(とき)と暮らす郷」認証制度として提案。放鳥が実現した08年から同制度下での稲作が島内で始まった。「トキが認めた」コメは「それだけでごちそう」と評価される。

同年9月に放鳥が始まり、野生下に369羽、全国分散飼育と合計で550羽にまで増えたトキには明治期の猟解禁後、羽毛を狙われて激減した歴史がある。環境省佐渡自然保護官事務所の首席自然保護官、若松徹さん(40)によると敗戦後の食糧増産のための農薬と化学肥料の投入も追い打ちをかけた。ドジョウなどを食べるだけなのに田を荒らす害鳥と見られ、03年に国産は一度絶滅した。

冬場のトキの餌場づくりに取り組む斎藤真一郎さん(新潟県佐渡市新穂地区)

今後10年で野生のトキは千羽規模になるが、一部農家は既にトキが稲を踏むことを「被害」と見る。高齢化に伴う労働力不足で農薬使用量が増えることも懸念材料だ。「稲踏みが被害ならトキは再び害鳥となり、たくさんの生きものと共生を目指す佐渡の農業も終わる」と斎藤さん。

放鳥以来21羽が本州に飛来。福島、長野、宮城など9県で確認された。斎藤さんたちのこれからの目標はトキがすめるよう培ってきた佐渡の環境を日本中に広めることだ。

(小林隆)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO38163160V21C18A1CR8000/

http://archive.is/ZKTsa

タグ:トキ 佐渡島
posted by BNJ at 22:23 | Comment(0) | 野鳥ニュース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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