2018年12月27日

【年の瀬記者ノート】越辺川のコハクチョウ 改めて知る自然の奥深さ【産経ニュース2018年12月27日】

 不思議な光景を見た。

 10月30日朝、コハクチョウの飛来地で知られる川島町八幡の越辺(おっべ)川(がわ)に取材で足を運んだときだ。目指す冬の使者の姿はなかったが、川面一面に次々と小さな波紋が現れ、一瞬きらりと何かが光り、水中に消えていった。

 魚がジャンプしている。そう確信した。久喜市の利根川では6月前後に巨大な外来魚、ハクレンの大ジャンプが見られることで有名だが、越辺川でジャンプした魚は、岸辺から10メートル以上離れて見たため、あまりにも小さく正体が分からない。もちろんハクレンではない。


 コハクチョウを撮るために持参した望遠レンズ付きのカメラを構え、夢中でシャッターを切った。だが、カメラは被写体をきちんと捉えることはできない。波紋の数は無数にあっても、広い水面のどこに現れるか分からない。捉えたと思った瞬間、姿はもう水の中に消えている。

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 数十枚は撮った写真を確認してみると、ほとんど魚らしいものは写っていない。その中で、ごま粒のように小さな魚体が写真のフレームの端に写っているものが数枚。ぶれた写真を引き延ばして見ると、どうも正体はオイカワらしい。

 オイカワはコイ科の魚で雄は産卵期の夏に婚姻色となり、美しく色づく。県内では珍しい魚ではない。岩槻市(現さいたま市岩槻区)で育った子供の頃、川遊びをしていて手づかみした美しい魚を父親に見せると、「ハヤだ」と教えてくれた。ハヤはオイカワの地元での呼び名だった。

 雑食性のオイカワは、飛んでいる虫を水中からジャンプして捕らえることが知られている。コイが大きな音を響かせてジャンプしたり、小さな魚が水面を跳ねたりするようにジャンプする姿は見たことがある。だが、今回は魚のジャンプによる波紋が水面を打つ雨のように広範囲に、しかも次々と現れ、その数に圧倒された。


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 自然の懐は奥深いとつくづく思う。いろんな川で獲ったり、見ていたりしたオイカワが、定年を過ぎ、まもなく退職するというこの年齢になるまで全然知らない一面を持っていた。

 住まいのある川越市の住宅街にある新河岸川では7月末、台風一過の晴れた午前中にスッポンが岸辺に上がって日光浴をしていた。この川では「空飛ぶ宝石」といわれるカワセミや、鮮やかな黄色が美しいキセキレイも見ることができる。

 平成18年秋にはオットセイが川越市内の新河岸川沿いで保護された。体の状態から何十キロも離れた東京湾から新河岸川までやってきたとみられる。このときは、朝から夜まで取材に歩いたが、その姿をカメラに収めたのは捕獲後で、悔しい思いをした。

 自然は不思議で、実に多様で美しく、魅力に満ちている。しかも、身近なところでも意外な姿を見せてくれる。目を向ければ見える存在なのに、見ようともしないのは、なんともったいないことだろう。

 コハクチョウの取材は11月6日にも越辺川を訪れたが空振り。やっと撮影ができたのは、それから3週間後だった。遠い北の国から渡ってきた真っ白な鳥が目の前で羽を休め、身づくろいする姿を眺めていると、時間の経つのを忘れた。 (石井豊)
https://www.sankei.com/region/news/181227/rgn1812270028-n1.html

http://archive.is/A4PJO

posted by BNJ at 10:27 | Comment(0) | 鳥類コラム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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